奥深き「オーダーキッチン」の世界 ~その10~
2020.3.28
家の新築やリフォーム、リノベーションを考える時、傷み具合も大きく、設備も古くなった既存のキッチンをどうするのか、それは部分的な交換、あるいは全面的なリニューアルなのか、総じてどのようにしたら良いかという部分は特に難しい問題です。
さらにその依頼先としてどのような選択肢があるのか、意外とよく知らない事ことも多いかも知れません。
これまで多く選ばれてきた選択肢は、いわゆる「システムキッチン」と呼ばれるもの。
古くから住宅メーカーや工務店、マンションデベロッパーによる、いわゆる「集合住宅」に多く採用されてきた商品であり、高度に規格化・画一化されたキッチンのパーツを自由に組み合わせて、優れた最大公約数的解答としてのキッチンを実現できる便利なものでもあります。
一方で、住空間を形成するインテリアスタイルやアイテム、マテリアルなどの多様化により、既成のシステムキッチンでは実現が難しい、とされるインテリア的なキッチンが求められるケースもあります。
特に、キッチン本体を構成するマテリアル自体の質感やデザインに繊細なこだわりを持ち、自分のイメージを大切にしながら、「本当に納得のいくキッチン」を実現したいと考える人たちが、ここ数年確実に増えてきたと言われています。
その流れを反映するように、住宅雑誌、インテリア雑誌などでも、これまでは住まいの中で、単なる設備機器でしかなかったキッチンに様々な角度から焦点を当て、「こだわりを形にしたキッチン」をその着想段階から検討中のエピソードを交えて詳細に紹介する特集も多く目にするようになっています。
最近では、インテリア素材や建材の扱い方として、整った人工素材を短いサイクルで更新しながら使うよりも、天然素材本来の質感と経年変化を楽しみながら、長く使い続けるという選択が、決してトレンドとしてではなく、成熟した家具文化として根付いてきました。
家具蔵でも、定評のある無垢材家具作りで培った素材の扱いと加工技術を木のキッチン作りにも生かして、「システムキッチン」では実現できない質感と自由な発想による木のオーダーキッチンをこれまでに多く製作してきました。
そしてこのシリーズ、奥深き「オーダーキッチンの世界」では、これまで様々な形で取り上げてきたケース・スタディを改めて振り返りながら、木のキッチンを実現された様々な方のプランを隠れたエピソードなども交えてご紹介していきたいと思います。
10回目は、古き良き日本の台所、どこか懐かしい雰囲気のキッチンの良さを残しながらも、新しいものと古いもののバランスを上手く測り、結果的に唯一無二の居心地の良い空間を創造したという、木のキッチンのお話です。
古き良き日本の住宅に溶け込んだ、木の質感溢れる「働く台所」の美しさ
家族とともに長年暮らしてきて思い出がたくさんある大切な住まいを壊してしまうのではなく、より快適な暮らしのために必要な部分を見極め、そこに手を入れて新たな価値を生み出すのが「リフォーム」です。
そのリフォームの中でも最も需要が多く、その真価が問われる部分はやはり水回りかも知れません。
K様はこれまで積み重ねてこられた日々の丁寧な暮らしの中で、日本人が昔より大切にしてきた美意識をなくさないこと、その中でも毎日の食事をきちんと作り、いただくための作業スペースであるキッチンの環境を整えたい、という気持ちを常に持っていたといいます。
しかし、思い出がいっぱい詰まった「台所」の雰囲気はそのまま残したかったため、なじみが無いピカピカのシステムキッチンに変えるのはどうしても抵抗がありました。
そこでたくさんのキッチンをショールームで見る中で、日本の職人が造る無垢材キッチンという選択になったのは当然の帰結だったかもしれません。
「昔から優れた道具には用の美がありますよね。シンプルで無駄がなく、そして素材本来の質感が生きていること。当たり前の良さがちゃんとあるこの無垢材キッチンは私に合っていると思います」
そう語るK様の「台所」には、豆を煮たり干物を焼いたりする美味しそうな匂いが、いつも漂っているような懐かしい暖かさと、凛とした美しさがありました。
素朴でありながら機能美もある昔の良い雰囲気をなるべく残したいと、天井付近の吊棚はそのまま利用することに。
そして、その下に新しくオーダーの無垢材吊棚と無垢材カウンターを製作し設置しています。
少し面白い試みとしては、 無垢材キッチン本体のウォールナット材に対して、吊棚は樹種の異なるチェリー材にしたこと。深い赤褐色が程良いアクセントになりました。
昔から使用されてきたという信頼感もある、清潔感あるステンレスと無着色・無垢材のウォールナットの質感は特に相性の良い組み合わせといえます。
引出の前板には高樹齢の幅広の木材が使われていて、横の引出し同士がひとつの連続した木目となっている部分は、大きな見所のひとつです。
時間とともに時の色を重ね、まろやかな独自の色味、味わいを醸し出してくれるので将来が楽しみなキッチンです。
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