チェアの造形と人間工学の関係性
2020.10.17
日々の暮らしの中で使う家具にはテーブル、チェア、デスク、収納、ソファ、ベッドなど様々な種類があります。
その中でも、実際に人の体を支えて補助するチェアやソファなどの家具を「人体的な家具(人体系家具)」と呼び、収納のような「建築的な家具(建築系家具)」とは分ける考え方があります。
建築系家具では、設計寸法の原点はすべて床面にあります。
それは足のかかとが床面にあって、全ての人体寸法はそこから決まってくるからです。
したがって、戸棚やたんすのような建築系家具の寸法原点が床面にあるのは当然のことです。
しかしチェア(人体系家具)の原点は座ったときの坐骨結節点(おしりの骨が座面に当たる位置)に置かなければなりません。
なぜなら座位における人体各部の寸法は、目の高さも肘の位置も全て坐骨結節点から決まり、足のかかとは無関係になるからです。
そのため、チェアの機能的な寸法はすべてこの点を原点として、前後・左右上下方向に決められていくのです。
他のどの家具よりも直接的に人の身体を支えるチェアという家具の作りは人間工学と密接に関わっていることを、今回お伝えしていきます。
そもそも人間工学とは?
人間工学を簡単に説明すると、人の身体の作りや行動パターンなどを基として、出来る限り緊張や苦痛などが無い自然な状態で使えるようにモノやシステムを設計し、実際のデザインにそれを落とし込むという学問です。
元々は19世紀前後の産業の機械化において、大量生産や効率化を求めて人の手で制御しにくい機械やシステムで事故が頻発し、その環境の中から「使いやすさ」「扱いやすさ」を考える学問として発展してきた歴史があります。
現在では様々な分野で人間工学に基づいたモノやシステムが溢れていて、私たちも日常生活でこの恩恵を大きく受けています。
例えば最新のスマートフォンの形だけでなく、ボタン操作の位置やスピーカーやマイクの位置なども最先端の人間工学から導かれた形と言えるでしょう。
チェアと人間工学の関わり
最も身近で誰しもが一日に一回以上使う、人間工学との関りが深い道具はチェアです。
私たちはそのことを殆ど意識することはありませんが、座るという姿勢は実はとても不自然な姿勢なのです。
座るということは立っている状態よりも腰や背中に負荷をかけ、下半身の安楽に対して上半身に負担をかける姿勢です。
人がそもそも動物である以上、犬や猫を見ればわかるように寝ている姿勢が最も楽な姿勢であり、行動しているときは立っている姿勢が動きやすい姿勢と言えます。
しかしながら長い歴史の中で人は作業をしたり、仕事をしたりなど下半身を休ませながら長時間作業をする姿勢として座ることを選択しました。
いまや多くの人が一日の1/4以上の時間を座る姿勢で過ごしています。
このように人の生活に根付き、身体を支える道具だからこそ人間工学に基づいたチェアづくりということが大切なのです。
人間工学的に座り心地の良いチェアの条件とは
●座面の中で坐骨結節点が最も窪んでいること
●両足の踵が床についていること
●腰が支えられ背中のS字曲線にフィットしていること
●背面が高過ぎず、首の関節の自由度が保たれていること
上記のような基本的な条件のほかに、チェアづくりが難しいと言われる理由は、そのチェアをどのような用途で使うかを明確に考えながらつくらなければならない事にあります。
つまり、座る時間によって楽に感じる椅子の定義が変わってくるのです。
30分までの比較的短時間の座り心地を考えた際は、背もたれが肩甲骨あたりまであるミドルバックチェアで、腰と背中を広範囲に支えてくれる椅子が楽な椅子とされます。
しかしながら、40分以上座ることを想定した椅子は逆に背もたれが腰くらいまでで、ひじ掛けと一体になっているようなラウンドバックと呼ばれる形の椅子が、背中を伸ばしたり、左右に体を動かすことが出来て楽に感じるのです。
チェアづくりから始まった職人家具の家具蔵のチェア
私たち家具蔵は人間工学に基づいて作りだされた北欧などのチェアデザインのエッセンスを取り入れながら、それを日本人の身体的特徴や生活様式を考え、日本人向けに人間工学的な側面からより使いやすく設計したチェアづくりを続けています。
背もたれの無いスツールや、ミドルバックチェア、ラウンドバックチェア、ソファ代わりになるようなリビングチェアや、もちろんソファまで、すべてを自社で設計し、茨城県の自社工場で受注生産しています。
板座のチェアの座面は原木仕入れならではの40mmもの厚板に、座刳り(ざぐり)と呼ばれるお尻の収まる窪みを削り、全てのパーツが木材からの削りだしで、人体の複雑な曲線にフィットする様に職人の手によって生み出されています。
そのチェアの種類は35種類以上にものぼり、座って頂く多くの皆さまに感動して頂いています。
家具蔵各店にあるチェアに座り、様々な姿勢で試してみて下さい。
「座る」という単純な姿勢の中にも、こんなに様々な要素が絡み合い、座り心地の良いチェアが生み出されることを実感して頂けるはずです。
家具蔵の無垢材チェアには機能と見た目の美しさが兼ね備わったものに贈られる「グッドデザイン賞」を受賞したチェアが多数あります。
チェアは「道具」であると同時にインテリアであり、使ってよし、眺めてよしという要素のどちらが欠けても良いものになりません。
「見て美しく」「素材とディテールが良く」「一番大事な座り心地も勿論」「丈夫でメンテナンス性の良い」チェアを一度体感しにいらしてください。
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