「木に馴染む」文化とは
2018.9.12
家具蔵の無垢材家具をご利用のお客様は皆様、無垢材の手触りや木目、表情を心地よいと感じていただきながら無垢材家具を楽しまれています。
これから家具探し、ということでご来店頂く方などからも店舗の入口から覗く無垢材の表情や店内の木の香りに「何となく心地良い・・・」という感想をいただきます。
その「心地よい」もしくは「何となく心地良い」という部分はどこから来るのでしょうか。
それは我々日本人の暮らしの身近な部分で表現することでわかりやすくなるかもしれません。
この心地よいと感じる=馴染んでいる状態、つまり「木に馴染む文化」を私たちが持つ理由を、小原二郎氏著書の「日本人と木の文化」から学んでいきましょう。
食べ物の場合
お菓子の折箱。
紙製のものと木製のもの(例えばスギなど)では、木製のものの方が一段と美味しそうに、もしくは美味しく感じる不思議な感覚があります。
洋菓子よりも和菓子の方がその違いははっきりと出る・・・。
そんな感覚に覚えはないでしょうか?
寿司についても同じことがいえます。
にぎりは一枚板のカウンターの上で食べてこそ美味しく感じると言われ、「そういえば」と感じる人も多いでしょう。
ヒノキなどの白い木肌を美しく保つ苦労も、いわば作品ともいえる一貫を美味しく食べてもらうため。
これも自然の木肌のもつ神秘性と、日本人の持っている文化に親和性がある由縁です。
建築や身近なものの場合
建物をつくるとき、設計者はたいへん細かい神経を使って材料を選びます。
人工物であるタイルの色の濃淡や、ちょっとした汚れにも職人さんは非常に腐心しているのです。
一方で、正面入口にヒノキやケヤキの一枚板を削って、墨太に「○○省」などと書いた看板をかけます。
一雨降ればすぐに汚れることはわかっているのに、木や無垢材の場合、その汚れは一向に気になりません。
むしろそれによって、風格がつくという日本的な安心感が得られるともいえます。
これも木肌のもつ神秘性のひとつでしょう。
日本では造形を行う際にその素材選びに大きなエネルギーを使います。
それができあがりの美しさを決定的なものにするという考えです。
だからこそ素材にこだわり、木の「質」にもこだわるのです。
ですが、西洋の美学ではそういう考え方はなく、どんな材料でも意志と知性と美意識をもってやれば、人間は立派な美術品をつくることができると信じています。
こうしてみると、日本人の精神構造とその美意識、さらにまた自然観は、木ときわめて密接な関係をもっていることが分かってきます。
看板の素材に無垢材や一枚板を使う、しかも字が書きやすく見栄えのするものを選ぶことは価格も高価なものとなります。
様々な場所でコスト削減を叫ばれる世の中、多くの予算を使うならどんな材料の看板でも選ぶことができるのに、わざわざ木で作るところはいかにも日本的です。
風呂場についても同じことがいえそうです。
いわゆる人工素材のもののほうがヒノキなどの白木でつくる風呂場よりも安価で、日進月歩である技術の向上で耐久性などもどんどん上がってきています。
しかし、皆「なんとなく」ヒノキの香りが忘れられず、その香りのする風呂場には特別な思いを抱きます。
それは日本人が持っているDNAにも関係していると言われます。
キリのタンスもまた同じです。
お嫁入りにはなんとしてもキリのタンスを持参したいというのが少し前までの風習でした。
これはキリの材の特長を活かした実用性もさることながら、キリの特色のひとつである白木の肌に対する郷愁が最大の魅力ともいわれます。
あの温かみのある木肌が、人をひきつける魅力になっているのです。
このように考えてくると、木は実は最も高級な神秘性をもつ材料といってよいでしょう。
木目があるということ
木の一番大きな特徴に「木目がある」ということがあります。
気候に寒暖の差がある地帯に生える樹木には、一年ごとに年輪ができます。
年輪の幅は、樹齢、土壌、気温、湿度、日照などの記録ですから、年輪にはその年の樹木の歴史が刻みこまれます。
高温多雨の条件に恵まれた熱帯地方の樹木は年輪をつくりません。
年中生長をつづけることができるためです。
しかし、乾季と雨季の交代のはげしいところでは年輪ができます。
樹木はまた偽年輪をつくることもあります。
生長期に悪天候に見舞われたり、害虫の食害にあったりすると生長が止まり、回復して再び生長を続けるので、一年に二つの年輪ができることがあります。
つまり木目は風雪に耐えてきた、「木の履歴書」なのです。
人間にもまた年輪があります。
それは精神や考え方の中に刻み込まれるので、樹木の年輪のように定かではありません。
その人の経験と生きる努力の中から生まれるものです。
だから私達は木の年輪の複雑な文様の中に、自然と人間との対話を感じ取ります。
それが木肌の魅力の最大のものといえます。
したがって木は人によって生かされ、人によって使いこまれたとき、本当の美しさがにじみ出てくるのです。
参考文献
鹿島出版会 小原二郎著書「日本人と木の文化」
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