「ナラ」はどんな木?
2018.1.30
家具蔵でも以前より定番として取り扱いがあり、たいへん人気の高い銘木「ナラ(楢)」。
ナチュラルな質感、素朴な雰囲気、どんな空間にもマッチする万能性で多くのお客様の住まいを彩るお手伝いをしています。
今回はこのナラについてお話していきます。
ナラのことをよく知らない方、ナラの家具をご検討の方、すでに家具や建具でご愛用している方も特徴を知ることでもっとナラの魅力に触れ、好きになってもらえれば幸いです。
ナラの特徴
日本に自生するナラの仲間にはコナラ、ミズナラ、アベマキ、クヌギ、カシワ、ナラガシワの6種類があります。
これらの樹木はドングリ(団栗)の実る木として、古代から日本人と密接にかかわってきました。
縄文時代はいわゆる採集の文化で、縄文人たちは採集した食物を食べ、余ったものは穴や屋根裏に貯蔵していました。
考古学調査によると貯蔵されていた食物の内訳は、ドングリなどの堅果類が中心で、このことから縄文人の主食だったと考えられています。
日本に自生するブナ科の樹木は22種も有り、それぞれに異なったドングリが実ります。
かたちもそれぞれ違うので、特長を知ることで公園などに生えている木がどんな木かがわかるようになるかもしれませんね。
ミズナラとオークの違い
家具材として使用する場合は「ナラ材」と呼んで一般的には「ミズナラ」を指します。
幹や枝に含まれる水分が多く、燃えにくいことからミズナラと呼ばれているのです。
別名はオオナラで、コナラやクヌギより寒冷な気候を好み、鹿児島から北海道まで広く分布。
樹高は大きなものでは35mに達し、環境が整っていれば最大寿命は1200年(!)とも言われています。
加工性や着色性に優れ、強度が大きく、重厚感があり、用途としては高級家具、建築材、洋酒樽などがあります。
特に北海道のものが良質とされ、「道産の楢」(ジャパニーズオーク)と呼ばれて大量に輸出され、ヨーロッパの各地で家具に加工されていました。
ちなみに英語ではコナラ属の樹木を「オーク」と呼びます。
このオークにはアカガシ亜属の「アカガシ」や「シラカシ」が含まれますので、家具材として頻繁に登場するホワイトオークはシラカシ、レッドオークはアカガシと思いがちですが、そうではなく、ホワイトオークはミズナラの近似種、レッドオークはカシワの近似種でアカガシワという和名があります。
古代ギリシャ・ローマ時代からすでに、オークは家具の材料に使われていましたが、特にオークはヨーロッパに多く生育する木だったので、マホガニーが登場する1700年代までは、最もよく使われる一般的な木材でした。
オークの木は大変堅く重いのが特徴で、虫が嫌がるタンニンを多く含んでいるため、他の木よりも害虫には強い木と言われています。
しかし、1920年代に発生したいわゆる「ナラ枯れ(ナラの集団枯死)」の被害で、激減したイギリスのオーク材を補うため、北海道のオークが大量にイギリスへと輸出されました。
そのため、1920年代のイギリスのオーク家具には、北海道産のミズナラ材が多く使われています。
江戸時代の日本においては裂けにくく硬いというナラの性質から、裂いて製材するという当時の方法では加工が困難だった為、利用を避けられていたという事もあり、大半を木炭の原料として消費してしまっていました。
しかしながら、広葉樹を加工する文化を持っていた外国では、優れた木材として重用されたのです。
道産のミズナラは輸出によって激減しただけでなく、日本の国策として広葉樹を伐採したのちに、成長が早く加工性に優れた針葉樹を植林することが行われたため、現在では高樹齢の新材は殆ど枯渇し、たいへん希少なものとなっています。
虎斑(とらふ)とは
木材にあらわれる木目には年輪によるものと、年輪の中心から放射状に入る組織(放射組織)によるものがあります。後者はいわゆる「斑(ふ)」と呼ばれますが、ミズナラの特徴の一つがこの斑(ふ)が入ることです。
これは木が養分を蓄えたり吸収した跡で、虎の縞模様に似ていることから「虎斑(とらふ)」と呼ばれています。
もちろん、どの樹種にも放射組織は有るのですが、ブナ科の樹種の放射組織は特に大きく、柾目に挽いたときに虎斑が大きく出ることが多いのです。
この虎斑は他の木目とは光沢が異なって銀色に輝いて見えることから「銀杢」もしくは「シルバーグレイン」とも呼ばれ、非常に美しい表情で材をひきたててくれます。
ウィスキーの樽材としての活用
ウィスキーの樽にはオーク材が使用されます。
オーク材を使う理由は、オーク材が持っているタンニンやポルフェノール類、その他の成分が独特の香味をつくるのに必要不可欠なこと、もう一つの理由は、ウィスキーはその熟成のため何十年にもわたって貯蔵しなければならないことです。
通常の樹木の水分や養分を運ぶ道管内部は、空っぽのことが多いのですが、ホワイトオークの道管内部にはチローズと呼ばれる科学成分が詰まっています。
これにより中の液体を漏れにくくする働きに加え、腐朽菌の侵入を防いで腐りにくくしてくれるのです。
チローズは、道管の周囲の柔組織が道管に膨出したものと考えられています。
近年では、ミズナラを使用した樽のウィスキーは日本独自の味を表現できるとして世界中で高い評価を得ています。
国内の有名なナラ
最後に国内で見ることのできるナラの大木をご紹介しましょう。
●小黒川のミズナラ
長野県下伊那郡阿智村にある日本最大のミズナラ。
樹高18.2m、幹回り7.25m、樹齢は推定350年(近年の研究では500年近いことが確認されています)。
ミズナラの巨樹として昭和43年に長野県の天然記念物に指定されていましたが、昭和63年に行われた全国調査により日本一の巨木であることが明らかになり、平成8年に国指定の天然記念物に指定されました。
●金袋山のミズナラ
東京都西多摩郡奥多摩町日原にある、関東に住んでいるなら一度は見に行きたい巨木。
樹高20m、幹回り7.51m、樹齢は推定800年以上。
樹齢に関しては平成18年に近くにあった同サイズのミズナラが倒れた際、その年輪を調べることで分かったとのこと。平成25年に巨枝が折れてしまったが、他はまだまだ健在。
東京ではもちろん、関東でも最大クラスのミズナラです。
こんな背景を持つナラを贅沢に無垢材として使用する家具蔵の家具。
その質感や手触り、表情もこうしたことを知ることでさらに魅力的に感じるようになります。
家具蔵各店でナラ材の家具を展示していますので、お近くにいらした際にはお立ち寄りいただき、その美しさを堪能してみて下さい。
参考文献
鹿島出版会 小原二郎著書「木の文化」
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