人間工学と睡眠への応用
2017.12.10
これまで当コラムでは様々な観点から人間工学と家具についてお話をしてきました。
今回は多くの人にとって欠かせない家具の一つであるベッド、特にマットレスとの関連性について進めていきます。
ベッドに使用するマットレスは身体を預ける家具の中でも全体重を乗せるものです。
そのうえ眠るという大事な行為を行うためのものでもあり、睡眠中は無意識ながらも大きく身体を動くことも多いもの。
その際の身体の動きをサポートし、近年特に取り沙汰されること「睡眠の質」を左右するものであります。
良いマットレスの条件
では、良い条件のマットレスとはなんでしょうか?
だいぶ昔にはベッドは柔らかいクッションでふんわりと身体を包み込んでくれるものほど良い、つまり柔らかければ柔らかい程良いという見解がありましたが、皆さんもご存じのように柔らかさ自体は必ずしも第一条件ではありません。
マットレスの一番大事な役割は、ブロックをつないだような構造になっている人間の身体をどのような状態で支持するかというところに性能が問われます。
立っているときは、身体のブロックは重力の方向に重なり合って、うまく支えられる構造になっていますが、寝た場合には各々がばらばらに沈んでいくことになるため、そのままでは苦しい姿勢になってしまいます。
なので、機能的に良いマットレスというのは身体の「沈み」に対応するような条件でなければなりません。
これまでマットレスの機能を考えるとき、身体は彫刻のような1つの剛体であるとみなして取り扱っていました。
しかし、上体は頭部・胸部・骨盤という3つの重いブロックとそれを結ぶ首と腰との2つのジョイントから成る物体であるという様な捉え方をするべきだ、というのが現代の考え方です。
仮に、均一の強さのスプリングを持つマットレスの上に寝たとします。
すると、人体の中でも重い部分である胸とお尻のブロックは沈み、中間の接合点に当たる腰の部分は、逆に上方に押し上げられてしまいます。
つまり、身体は全体としてW字形に変形してしまうのです。
しかもそれはスプリングが柔らかければ柔らかいほど、顕著になってきます。
ということは、マットレスのバネ部の条件を変えることは、身体はV字形や直線形など様々な変化をすることを前提にした合理的な技術の発展といえます。
この身体の変形は言い換えれば「寝姿勢」と言い換えることもできますが、この正しい寝姿勢を保つには、マットレスだけではなく、枕も重要な要素です。
枕の重要性
枕を変えると寝付けない、という人がいます。
また、快眠のために枕にこだわりを持つ人も多く、睡眠と言う行為を支えるには枕はたいへん重要な要素です。
快適な寝姿勢を正しく保つのに重要な枕の適当な高さは6センチ?8センチ程度だといわれています。
ここで注意したいことは、マットレスの柔らかさによって枕の高さも変わってくるということです。
同じ枕を使っていても硬いマットレスに寝たときと柔らかいマットレスに寝たときとはその感じる高さが異なります。単純に沈み込みの大きさもありますし、頭部・胸部・腰部でのマットレスの受ける圧力と沈みの違いが理由でもあります。
枕は大事な頭を支える体具であり、妥協せず、自分に合ったものをしっかりと選ぶようにする。
多くの人が実践していることですが、やはり重要なことです。
体圧分布を知る
睡眠時の体圧分布についても知ると知らないでは大違いであり、これを知ることで快適な寝具選びにまた近づいていきます。
マットレスに寝たとき、身体に受ける圧力の分布する状態の良し悪しが寝心地を左右することは椅子の場合と同じです。
そこで標準的な硬さのマットレスと柔らかすぎるマットレスについて体圧分布の研究がなされました。
標準的な柔らかさのものでは感覚の鈍い所に大きな圧力がかかり、鋭い所には小さい圧力が分布していました。
これに対し、柔らかすぎるマットレスでは、鈍いところも敏感なところも同じように圧力がかかってしまい、結果的に疲れやすく、睡眠の質に差が出ることがわかりました。
柔らかいマットレスが良くない理由は、その他に4つほど挙げられます。
1.身体の支持が不安定なために正しい姿勢を保とうとして絶えず筋肉が働く(ので疲れてしまう)。
2.身体が全体として縦方向からも横方向からも中央に向かって押し曲げられるようになるので寝苦しく感じる。
3.寝返りがうちにくいので眠りが浅くなり、またその刺激で睡眠が妨げられてしまう。
4.人は寝ている間に多量の汗をかくのに関わらず、マットレスとの接触面積が大きいため、発汗が抑えられてしまう。
いずれにしろ、柔らかすぎるマットレスは結果的に睡眠を脅かすことにもなりかねない、というのが一般的な通説となっています。
当然そこに個人差はあり、心地よい睡眠をとるためにも自分の身体に合ったものを選ぶことが大切です。
固い・柔らかいだけでなく様々な性能のものが多様に出ている昨今、服や靴の試着と同じように、マットレスや枕も色々試しながら購入するのが一番なのです。
これはマットレスに限らず、身体が触れる家具、例えば椅子やソファも同じことがいえます。
スタイルや見た目、価格だけではない「心地」を重視することが暮らしの「質」を変えていくのです。
関連リンク
参考文献:
実教出版株式会社 小原二朗著書「暮らしの中の人間工学」
講談社 小原二朗著書「人間工学からの発想-クオリティ・ライフの探究」
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