人体計測という考え方
2017.9.30
「人体計測」。
なんだか耳慣れない言葉です。
一見堅苦しく、遠いような存在のカテゴリーに感じますが、実はとても身近なこと。
日頃から私たちが使用している家具や機器。
これを製作する際の基本となっているのが、この「人体計測」です。
例えば、チェアやテーブルといった身に触れる家具はもちろん、収納やキッチン、吊戸棚なども人体計測をもとに、いかに使いやすくすることができるかを考慮してつくられます。
チェアだけでなく、例えばベッドやソファでも、体重分布条件を加味しながら設計されるのです。
このように生活の身近にある、様々なものに人体計測が関わっています。
当項はこの「人体計測」についてお話を進めていきます。
「人体計測」とは
人体計測は、簡単に言えば、「身体の追求」です。
人体そのものの寸法は勿論、各関節の動作範囲、運動域、作業傾向など広い範囲において測定される事柄です。
現代において、実際に人が使うモノを設計する際にまず第一に問題となるのが、人体の寸法とそれから導き出される設計寸法です。
人体の寸法は実際に計測することができますが、それ以外に「生態観察」という分野が必要となってきます。
具体的には体型や身体の各パーツの分類やセグメントのことで、それらを基にモノはつくられます。
例えば、「頭型…作業帽」「顔型…眼鏡・電話機」「体型…椅子・ベッド」「手型…手袋」「足型…靴・靴下」
といった分類です。
人体寸法の計測においては、体格判定の基礎資料として、身長・体重・座高など多項目にわたって測定します。
皆さんもよく知る、身長計・体重計・座高計などは最も基本的な測定用具です(実際には一般のものより更に精巧で複雑なものを用います)。
ところが、それ以外の人体各部の測定ということになると、人体自体が複雑な形態を持っているうえに、筋肉・皮膚などの軟い組織で覆われており、更には関節などの可動部分が多いために簡単には測定できません。
専門機器が簡単で便利なものというわけではないので、計測自体が難しいのです。
特に人体の大きさは、身長・座高・胸囲・体重などによって表されますが、この数値は性別や民族別によっても大きな違いがあるため、各国の人種ごとに計測をしていかなければならず、非常に膨大なデータが必要となります。
例えば、日本人の成人男子の体重の平均値は58.8?です。
頭部の重さは体重の約8%となり、椅子に掛けたときに座面の受ける重さは全体の体重の約85%です。
このような体重の分布条件からチェアやベッドなど、人の身体を預けるものの設計をしていくのですが、これについても多種多様なデータからの最大公約数を出していく作業が必要になります。
このようなことをふまえても、人体計測が人間工学の最も基本になる資料のひとつであることは言うまでありません。機械や道具は人間が使うものですから、その人間の身体を基礎にしてモノが作られるのは当然とも言えます。
しかしながら、前述のように、必要に応じてデータを見出すことはたいへんな作業となります。
更に目的によって計測部位や方法が違ううえに、対象はきわめて多方面にわたります。
そして、機器や家具の設計のために利用できる人体計測値は、これまであまり発表されていません。
単純にデータが乏しかったことも関係していますが、最近になってようやく資料が整い始めたと言ってよいでしょう。
人体計測値の注意点
そうして得たデータ=「人体計測値」を使うに当たって注意することも存在します。
そのひとつは、衣服をまとわない姿で測定された計測値が、そのまま設計寸法になる場合は少ないということ。
実際に人は衣服を着て生活するわけですから、数値にある程度の「空き」を加えないと実用対象にはならないのです。対象によってはこの「空き」の寸法のほうが、計測値そのものよりも重要な場合すらあります。
このことを理解せずに、計測値をそのまま当てはめていくと使いにくいものを設計してしまうことになるので注意が必要というわけなのです。
もうひとつの注意点は、計測値自体が民族・職業・年齢・性別などによって違いがあるほか、例えば日本であれば関東・九州…といったような地域によってもまた差があるということです。
ひとつの数値を全体に共通なものとしてとらえることができないことは考慮しなければなりません。
更に応用としては、次のことも注意する必要があります。
1、設計のはじめから人間が使うことを考えること。試作の段階ではもはや遅い。
2.人は常に動くものであることを忘れないこと。ある程度の「余裕」を身体の周囲に残すという考え方が必要である。
3.すべての人が操作できるような装置を設計するには、95%以上の数値を参考することが望ましい。
普通の平均値を使ってしまうと半数の人(以下)しか適さないことがある。
これらのことを考慮しながら人体計測ということが行われています。
その結果、私たちが日々使用している様々なモノができ上がっているのです。
道具になるものはほとんどにおいて人体計測が関わっていると言っても過言ではないでしょう。
家具蔵の家具もその賜物です。
家具蔵のチェアを座る時、チェストの引き出しを開ける時。
そんな話を思い出して頂ければ嬉しく思います。
参考文献:
実教出版株式会社 小原二朗著書「暮らしの中の人間工学」
講談社 小原二朗著書「人間工学からの発想-クオリティ・ライフの探究」
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