針葉樹と広葉樹の違いを知る
2017.8.23
家具蔵では広葉樹による家具作りを行っています。
一言で広葉樹と言っても20万種に及ぶなかから家具作りに適した樹種を厳選し、皆様にご紹介している訳ですが、一方で木には針葉樹という種類もあります。
組織や構造に大きな違いがあり、材料としては広葉樹は強度があり、キズが付きにくい材料となります。
このことから、靴を履いたまま暮らす文化の欧米では、広葉樹は床材に重宝されてきました。
家具材に広葉樹が多いのも、このような特徴を活かしてのことです。
一方で針葉樹は柱や梁といった建築の構造材に多用されてきました。
縦にまっすぐな材を切り出しやすく、軽くて扱いやすいのがその理由です。
建築材料として重宝されてきた訳がわかりますね。
どんな場所に分布しているのか
日本は国土面積の約6割が森林という世界でも有数の森林大国です。
森林の面積は約2500万ヘクタールで、森林率は世界第2位。
(因みに1位はフィンランドで約74%。続く日本は約68%、3位はスウェーデンで約67%)
現在でこれほどの森林面積があるなら、昔は更に多かったと思いがちですが、昔は暮らしのエネルギーとして、薪や木炭を使っていたため、山から大量の木を伐採していました。
その為、森林面積は現在よりも少なかったのです。
山水画や浮世絵を見ると描かれているのが禿山ばかりなのはこうした理由からです。
針葉樹が中心となる森林が多く見られるのは、広葉樹の生育には適さない地域です。
これは、針葉樹が広葉樹より古い型の植物であるため、種間の競争では広葉樹に勝てないからと言われています。
その代わり、劣悪な環境への耐性を発達させ、広葉樹が育ちにくい寒冷な地域では針葉樹が大規模な森林を作ります。
亜寒帯といわれるシベリア・北アメリカ大陸には、タイガと呼ばれる広大な天然の針葉樹林が広がっています。
日本では北海道の一部や高山地帯の寒冷地が針葉樹林帯と呼ばれる地域にあたります。
日本はもともと広葉樹中心の文化であり、それは分布の特性にも起因しています。
針葉樹林と広葉樹林
日本の森林を構成する主要樹種により分類した場合、針葉樹林と広葉樹林に分けられます。
さらにそれを「誕生した過程」により分類した場合、おもに「人工林(育成林)」と「天然林」の2つに分けられます。
人工林は、おもに木材の生産目的のために、人の手で種を蒔き、苗木を植栽して育てている森林で、間伐などの手入れを行っているため「育成林」とも言われます。
人工林は日本の森林面積の約4割を占めています。
一方、天然林は主に自然の力によって発芽し、育ち、森林として成立したもので、日本の森林面積の約5割を占めます。
そして、日本では森林全体の半分を超える面積を針葉樹が占めていますが、天然林に限ってみると針葉樹は20%に満たないことが分かります。
これは戦後の復興などのため、木材需要が急増した折に政府が行った「拡大造林政策」に起因します。
「拡大造林」とは「おもに広葉樹からなる天然林を伐採した跡地や原野などを針葉樹中心の人工林(育成林)に置き換える」ことです。
伐採跡地への造林をはじめ、里山の雑木林、さらには、奥山の天然林などを伐採し、代わりにスギやヒノキ、カラマツ、アカマツなど成長が比較的早く、利用価値の高い針葉樹の人工林に置き換えました。
現代に繋がる造林政策の結果
この拡大造林の時期はエネルギー源が木炭や薪から電気・ガス・石油に大きく切り替わって「燃料革命」と重なります。
もともと農家が多い里山の雑木林は、地産地消での生活必需品以外にも都市に薪や炭を供給する役割も持っていました。
その木炭や薪など、エネルギー源として利用されていた木材が新しいものにとって代わられるようになったのです。
里山の雑木林等の天然林は価値が薄れたため広葉樹は伐採され、針葉樹に置き換える拡大造林は急速に進みました。
針葉樹であるスギやヒノキの木材価格は需要増加に伴い急騰し、「木を植えることは銀行に貯金することより価値がある」と、いわゆる造林ブームが起こりました。
この造林ブームで現在のような針葉樹を中心とした育成林が大きく分布されるようになったのです。
日本においては、古代からクヌギ・ナラ・カシなどの広葉樹が用いられてきました。
新石器時代の頃から広葉樹を原料とした木炭が使用されてきたこともわかっています。
(ちなみに有名な備長炭はカシ系の堅い木を使用した白炭と呼ばれる炭で、長時間安定した火力が持続する特徴があります)
バーベキューなどで良く使う木炭は黒炭と呼ばれナラ系の木材が多く使われています。
日本人は古代から樹木と身近に暮らしてきましたが、建築用材としては針葉樹を多く利用し、広葉樹(特に主要なナラ材)は食糧もしくは燃料として使用することが多かったようです。
このため新たなエネルギーが生まれ、木炭の需要が大きく減った時期には広葉樹を伐採し、針葉樹に植え替えられていったのです。
現在では全体の森林面積の半分以下まで広葉樹林は減ってしまっています。
戦後の経済成長期に拡大造林政策で増えた針葉樹林ですが、1964年の輸入全面自由化以降、急激に外材の供給量が増加し、昭和44(1969)年には初めて国産材供給量を上回りました。
外材との価格競争に敗れ、採算が合わないために放置されてしまった荒廃林は、現在いたるところに広がっています。
そして放置された杉やヒノキは花粉を大量に発生させ、花粉症は国民病となっています。
また杉やヒノキが密集されて植えられた人工林は木自体が細長く根張りも浅いうえ、保水力も少ないので深く根を張る広葉樹と比べても土砂災害を起こりやすくしていると言われています。
森林は多くの恵みと癒しを我々に与えてくれます。
しかし、無計画に人間が行ったことの結果で自分たちが苦しんでいることも事実。
これからの世代への警鐘として、私たちも今一度、森林や木材を介して現代の暮らしの在り方を考えなければいけないことも教えてくれています。
参考文献:
鹿島出版会 小原二郎著書「木の文化」
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