人間工学の研究方法
2017.8.31
当ページではここまで、人間工学についていわゆる「概要」ともなるべき部分をご紹介してきました。
ただ、一言で「人間工学」といってもその検証には様々な手段と方向性が存在するもの。
今回はあまり知られることのない、その「検証」についてのお話となります。
人間工学にまつわる様々な方法論
人間工学を研究するのには大きく分けて3つの方法論が存在します。
1.心理学的測定法…刺激や信号を知覚し、環境の快適さの度合いを測定する際に使用されます。
2.動作・時間研究の方法…人間の操作や動作を分析するのに用いられます。
3.人体計測・生理学的計測…身体の寸法や色々な生理的変化の程度を測定するために用いられます。
これにどのような条件が必要かを知るための「観察や実験」という手段や、異なった分野の専門的な知識も必要になってきます。
人間工学の検証は複雑多岐にわたるものであり、その結果が我々の日常の使い勝手に繋がってくるのです。
「作業のやりかたが適当でないと生産能率も上がらず、疲労も多くなる」
これを科学的に追及して、最もよい作業方法を見出そうという試みが20世紀初頭から行われてきました。
その方法は、ストップウォッチや写真・動画を使い、作業を要いくつかのパートに分けて分析し、不要な動作は省きながら、効率の良い動作のみを組み合わせて最良の作業方法をつくろうというものでした。
これが動作・時間研究の方法の一つです。
例えば、ある研究者が建物をつくるときのレンガ工の作業を詳しく分析し、レンガを置く場所を作業の進歩状況に合わせてどのように変えていけば能率が良くなるかを調べました。
また、シャベルで砂や砂利をすくうのに、どれくらいの量をすくえば疲れが少ないかということを柄の太さと長さ、手の位置や重心との関係を動作分析によって求めたのです。
作業研究の始まりは、このように身近で現実的な部分がきっかけです。
特に作業研究の中心は動作と時間の研究でもあるので、このような手法を使うことで、人間と機械とがうまく適合しているかどうかが分かり、どう改良すれば早く正確に機械を操作できるようになるか、という問題点を明らかにしてくれます。
人体計測の目的は、人間工学の目指すところの「人間側から見て疲れが少なく使いやすい」「操作に誤りがなく、しかも効率のよい」機器類や道具を設計することです。
それにはまず、人体の寸法はどのくらいであり、手足はどこまで届くのか、作業や操作をするのに人間はどのくらいの負担がかかってくるか、という身体的な量やその変化を客観的に捉えることが必要になってきます。
それを測定するのが「人体計測・生理学的計測」です。
機械を運転する際の計器類は視線が届いて楽に目盛が読み取れる範囲に置かなければなりません。
コントロールのためのスイッチやハンドルは手の届く範囲内に、しかも操作しやすい方向に取り付けられるべきです。
また、直接人体に接する衣服の裁断や椅子などの設計は、人体各部の寸法が基礎となります。
こうした意味からも人体計測は人間工学の基礎ともいわれています。
効率が良く、作業性が良い。
これは日常使う家具においても同じことです。
家具蔵でもこうした見地をもとに、ひとつの家具・ひとつの部品のチェックや造形が行われています。
また、職人たちが使う工具もその人に合った形状にそれぞれ改良が加えられますが、これも一種の人間工学といえるかもしれません。
人間工学に欠かせない「環境・作業・安全性」
もう一つ、人間工学において欠かせない分野は、「環境・作業・安全性」です。
人間の作業活動は環境に左右されます。
例えば、気温や気候もそのひとつ。
気圧・温度などの一つの要因を変化させて、それが精神的な作業にどのように影響するかを実験してみると、正常の空気状態から離れると正常時の作業量を維持しようとする自動制御機構が身体の内部で働きます。
つまり、環境が悪くなると作業状態は悪化するわけです。
(かといって快適な環境状態のときに、作業量があがるかと言うと必ずしもそうではないのは面白いところではありますが)
特に高温多湿に対しては、人の作業能率を明らかに悪くするとの実験結果もあり(スポーツの試合などでも明らかですね)、様々な状況を考慮していかなければなりません。
環境は人の心身状態に影響しますが、一方で人間は、心身ともにその環境に適応する能力をもっています。
それが適応しきれなくなったときには人間のその機能は平衡を失い、病的な状態になってしまいます。
人間の機能が快適に働くことができる範囲を見出し、それを人為的に制御しその環境を作り出していくのが人間工学の課題なのです。
そして、作業に対して安全性を確保することが大事なのは言うまでもありません。
災害や事故が発生する原因の中には、不適性に原因を求める見方もあります。
(自動車の事故が絶えないのは曰く、適性の無い人が運転するからだ、という論理です)
その場合、解決には適性を持つ人間のみを配置することで解決を図るやり方と、人間工学的見地から人間と機械の不適合な状況を見出して、それを機械側から改善していこうというやり方が存在します。
「機械や器具の操作上に無理がない、危険を伴わない構造であること」「機器の作業状態を表示する視覚表示器は、文字や記号目盛が適当であること」「照度、照明方法・温度・湿度・振動などの作業環境が適当であること」といった条件を人間工学としての機器の配置や姿勢や室温などの快適性といった視点を織り交ぜて、事故防止と安全性の確保に繋げています。
参考文献:
実教出版株式会社 小原二朗著書「暮らしの中の人間工学」
講談社 小原二朗著書「人間工学からの発想-クオリティ・ライフの探究」
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