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「木の深イイ話」-日本人のサクラへの思い-

2019.1.24

 

日本神話に登場する神阿多都比売(かむあたつひめ)、つまり木花之佐久夜毘売(コノハナサクヤビメ)の象徴である花は、梅と桜となります。

絶世の美女であるサクヤビメに相応しい可憐な花たちですが、美人薄命の象徴でもあるサクヤビメのイメージに近いのは桜となります。

ただし元々は、中国や朝鮮半島の山桜桃梅(ユスラウメ)をイメージしたものなので古代人にとって、春の花は梅も桜もさほど区別はしていなかった可能性もあります。

いつしか日本人の心に深く愛着と畏敬の念を持つ桜に込められた漢字が誕生していきましたが、その成り立ちのルーツを辿る事で、如何に桜が現代においても愛されているのかが分かってきます。

 

家具選びの際には、色味だけではなく、その樹の持つイメージを古代の先達がどう感じていたのかを知れば、より一層の愛着が持てると思います。

今回は、日本を代表する樹木、桜を取り上げてみます。

ちなみに、園芸樹として日本を席巻している染井吉野(ソメイヨシノ)ではなく、オオシマザクラやオオヤマザクラ、カスミザクラなどからなる野生の山桜を対象にしていますので、ご了承ください。

 

桜の字の成り立ち


 

現代における漢字では「桜」と表記しますが、旧字体では「櫻」と表記していました。

漢字としての由来は一説では、木そのものと,音をしめす嬰(エイ→オウ。小さい)を組み合わせて、小さい実(さくらんぼ)のなる木の意味という説があります。

また、嬰は「貝二つ+女」の会意文字で,貝印を並べて,首に巻く貝の首飾りを表わし、取り巻く意を含んでいます。

櫻は「木+嬰」で花が木を取り巻いて咲く木、との説もあります。

枝葉がかぶさるように付き、根も付けた木の姿を描いた原子です。

子安貝(宝貝)の象形で、古代では安産のお守りとされていました。

なよなよと体をくねらせたなまめかしい女性の姿を描いた象形です。

木へんと「嬰」を分けてみると成り立ちが一層分かります。

「嬰」は(みどりご)、生まれたばかりの赤ちゃんのことを意味し、「みどりご」「緑児・嬰児」、新芽や若葉のように生命力に溢れている若々しい児のことを示しています。

赤ちゃんは当然、生命力には満ち溢れていますが、小さくて大切な、手をかけなくては生きられない存在。

つまりは「守るべきもの」と表現したのでしょう。

「嬰」に「女」が付くのはやはり女性からしか赤ちゃんは生まれない事の表れのようです。

「貝」には宝や装飾品や財の意味があったようです。

しかも、櫻の漢字の貝は、子安貝。

安産のお守りでもあるのです。

縄文や弥生時代を想像すればなんとなく納得出来ることです。

赤ちゃんは当然のことながら、女性から生まれる財産です。

今日本が抱えている少子化の時代に、少し考える必要のある問題もありますが、現代の様に医療の格段進歩も無ければ、栄養面、衛生面、相対的な平均寿命を考えると太古の出産は当然命がけであり、母子ともに健康という確率は極めてまれな事だったと思います。

 

お産とサクラの意外な関係


 

ちょっと話はずれますが、縄文のビーナスという言葉を聞いた事があるでしょうか?

姿は明らかに女性で、表情は目が斜めに口は小さく造形されています。

ユーモラスだけど、決して楽しい表情ではない…、どちらかというと苦しさを我慢しているそんなイメージです。

 

そして片手で握りやすい。

そんな外見を見ているうちに想像出来ることとして、女性であり、妊婦のような体形、少々苦しそうな顔…。

そうなのです、これは出産中の女性を描いた造形なのです。

女性は想像を絶する苦痛を味わいながら一生懸命にお産を行います。

その時に何かをしっかり掴むことで力を振り絞る助けになる物を、村を挙げて作ったのでしょう。

この縄文のビーナスは出産時に妊婦に握らせ、りきませる人形です。

その人形は持ちやすくしっかりと握れる頑丈なものでなくてはいけません。

また、無事に出産できるように、祈りも込められたものでなくてはいけないのです。

縄文の遺跡を見れば、集落自体に秩序があり、助け合って生きていたことが分かります。

村・集落の財産、宝である赤ちゃんの出産の時も、全員で助け合っていたに違いありません。

こうした土偶は、集落内の複数の女性が交互に使用した大切なものだったと想像出来ます。

 

本題に戻りますが、太古から古代の女性が命を懸けた出産の際には、土偶の他にお守りで安産祈願をしていたそうです。

やっと話が繋がりますが、これこそ子安貝なのです。

女性の象徴として、産婦に握らせたり、枕元に置いたりしたそうです。

子安神社を知っている方も多いと思いますが、この神社は安産祈願にご利益がありますが、御祭神は木花之佐久夜毘売となります。

つまり、木花之佐久夜毘売は木・安産祈願・女性を象徴する神様なのです。

太古の先達が、桜を大切に思ってきた理由は、300~500年は生きる山桜の大木に対しての畏敬の念だけではなく、第一は集落や村の宝である子孫を生み出す偉大な女性を木花之佐久夜毘売の化身である桜の樹を見立てたことによることなのです。

 

櫻という漢字に込められた、先達の思いは感じられましたか?

漢字の書体の変化で、桜が現在のスタンダードではありますが、旧字体の深く・感動的な文字作りを基に、桜の樹や花の愛で方をちょっとだけ変えてみると新しい世界が待っていると思います。


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