横浜、横浜元町と家具の歴史
2019.1.27
横浜家具の歴史
『横浜家具』という呼び名を聞いたことはありますか?
その名の通り横浜の、中でも元町を中心に製造されている家具のことを言います。
元町の歴史をさかのぼると、1859年の横浜港開港をきっかけとした、歴史ある家具であることがわかります。
1853年に黒船が来航すると、鎖国をしていた日本では開港の動きが活性化しました。
横浜港もそのひとつで、1859年に開港すると、海外から多くの人が港に集まりました。
これをきっかけに、当時の幕府が横浜への出店を奨励したこと、西洋人、および西洋人との商売を仲介する中国人が多数流入したことから、元町は現在のように非常に栄えた街へと成長して行くことになります。
日本で商売をするにあたり、当時の西洋人は日本での生活について考える必要がありました。
関心ごとのひとつは家具。
鎖国をしていた日本と西洋とでは生活スタイルがまるきり違います。
かといって急に日本の生活に慣れるのは困難です。
家の中では靴を脱ぎ、正座で食事をし、座布団でくつろぐ日本人の生活では、西洋人は到底休まりません。
彼らの生活には椅子やダイニングテーブルが不可欠でした。
しかしながら、畳を基盤にした家には、椅子もダイニングテーブルも不要、すなわち製造されていませんでした。
西洋人が故郷の生活スタイルを再現するならば、家具の持ち込みは必須と言えました。
横浜家具は、こうした背景をもって日本に持ち込まれた、当時の西洋家具の修理を起源としています。
西洋人の用いる家具が損傷した場合、新たに購入することも、本国からの輸送も、当時の日本で行うには難しい状況にあったため、彼らは日本人の、すなわち横浜の職人たちに修理を依頼しました。
そうして修理をしていくうちに、横浜の職人たちは西洋家具の構造や取り扱いを学んでいき、次第に自分たちで同じものを作るようになったのです。まさに『和製西洋家具』と呼べるのが『横浜家具』なのです。
横浜家具の特徴
このようにして日本で作られた西洋家具は、日本で暮らす西洋人にはある意味珍しく必見の品物。
需要ある産業が伸びていくのは必然のことですので、横浜の職人たちはどんどん西洋家具を手掛けていきます。
多くの家具を作っているうちに、横浜家具は、西洋の生活スタイルに合わせたまま、東洋の職人の技術を取り入れて発展しました。
西洋家具元来の特徴を備えたうえで、独自のものまで取り入れた横浜家具の特徴。
それは主に3つです。
1.基本的に無垢材を使う
2.釘を使わない
3.曲面をかんなで描いている
1.基本的に無垢材を使う
無垢材とは、原木(丸太)から切り出したままの自然な状態の木材のことです。
無垢材は乾燥などの前工程も含め、木を見極める力や製作する職人の技量が問われ、単体であらゆる形状に対応することも簡単ではありません。
しかしながら、本物の木が持つ風合いや質感、打痕など損傷した場合でも、表面を削れば綺麗に修復できます。
美しく、長持ちすることは無垢材の大きな特徴です。
2.釘を使わない
横浜の職人たちは釘を使わず、家具の部品に特殊な加工をすることで組みあがるようにデザインしました。
これは「ほぞ継ぎ」などに代表される、釘を使わない継手(2つの部品を接合する構造のこと)の一種で、横浜開港前からすでにこの技術は確立されていました。
「木は木で締める」という日本独自であり、伝統の木工技術です。
西洋家具の修正から構造を学んだ職人たちは、自分たちが家具を作るに際してこの技術を取り入れていきました。
3.曲面をカンナで描いている
曲線的なかんなを使った横浜家具は、西洋のやすりによる家具では表現できない曲面を描き出します。
西洋家具のまるみを帯びた淑やかな曲線に対し、「キレ」があるとされる横浜家具の曲線は、光を当てると、模様のような独特で美しい魅力を醸しだします。
また、直線と曲線が融合するデザインは日本独特のもので、横浜家具職人はここに特別なこだわりを持ちます。
1人の職人が使うかんなは100種類以上。
これだけのかんなを用いて表現する必要のあるこの曲面こそ、横浜家具の見どころと言えます。
身近な場所で、広い世界で愛される横浜家具
横浜・元町の発展とともに成長をした横浜家具。
中には東洋趣味の木彫り彫刻を取り入れた品もありました。
これだけのアイデンティティを獲得していった横浜家具は、元町の西洋人を通じて世界に飛び立ちます。
ヨーロッパに流通すると、陶器や漆器と並び、横浜家具は日本の輸出工芸品のような扱いをされるほどの注目を集め、最盛期を迎えました。
このようにして、横浜家具、ひいては日本の家具作りは世界中でその名前を広めていったのです。
元町の発展とともに成長した横浜家具は、その歴史にふさわしく、職人の技の粋を集めて今も作られています。
横浜家具は、基本的に木の選択から仕上げまで一人の職人が行っています。
無垢材から家具に活かすべき木目をデザインとして選び、接合部を手掛け、かんなで唯一無二の曲線を描いて、ようやくこの家具は完成します。
職人から職人へ、1859年の横浜開港から息づく横浜・元町の技術と歴史を体現する横浜家具は、より良いものを求める人々にふさわしい一品になるのです。
今日まで息づく歴史のように、いつまでも人々の生活を支えてくれるでしょう。
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