林業の今 その2
2018.5.29
前回のコラムで「林業の今 その1」として、日本の林業の歴史と現況をお話しました。
今回はその2回目として、海外ではどのような状況であり、世界有数の森林国であり、それを文化として世界に発信させようとしている日本はそこから何を学ぶべきなのかをお話ししたいと思います。
林業の最先端国 ドイツ
昨今の国内林業界では「ドイツに学べ」が林業界の大きな潮流だそうです。
日本の森林率(国土面積に対する森林面積の割合)は約67%ですが、ドイツの森林率はその半分の約30%しかありません。
ちなみに里山や原生林などもある日本の森林とは異なり、ドイツは全て木材生産に使われるための森林で面積はおよそ1千万ha。
日本の木材生産林(いわゆる人工林)も面積は約1千万haなので、木材生産のための森林面積は、ドイツと日本はほぼ同じということになります。
しかし、同じ面積の森林から、ドイツは日本の約5倍の木材を生産しています。
そして持続可能な林業も成立しています。
いったい何が違うのでしょうか?
キーワードは「合理化」と「仕組み」
ドイツは緩やかな地形に森林があり重機も入り易いので、そこをしっかりと活かします。
日本では
「そもそも山や急勾配の土地に木が多く木材を伐り出すのがたいへん」
と言われていますが、ドイツではそうではないのでその地の利を最大限活用いているのです。
そこに重機が入り、予め注文のサイズがインプットされた機械によって、木材を次々に伐り出します。
それらの大型重機やトレーラーが森の隅々まで入ることができるように林道がしっかりと整備され、効率よく木材を運び出せるようになっています。
また「植林」を行わないことも合理化のひとつとして林業の成立に大きく関係しています。
ドイツは緯度も高く寒いため、日本より植生がかなり貧困です。
森林の樹種はトウヒ、ブナ、モミが主ですが、このトウヒ(日本ではホワイトウッドと呼ばれています)は、森林の手入れを適切にしておくと、「天然更新」といって次の芽が勝手に生えてきます。
日本のように植林が必要とされていないのです。
日本の林業でも機械化や合理化が図られつつありますが、環境的な障害も少なく、作業も合理化されているドイツではこのようなことが進んでいるのです。
それを支える森林行政の仕組みもユニークです。
ドイツには森林官と呼ばれる役人がいます。
森林を管理する役人は日本にもいますが、やっていることがかなり違います。
約2千haの森林毎に1人配置され、その地域で森林整備について指導、助言を行うのです。
彼らは専門的な教育を受けてきたスペシャリストで、教育システムも日本とはだいぶ異なっています。
家族共々地域の一員として地域に溶け込み、原則定年まで同じ場所で働きます。
個人所有の森林に対する権限も与えられていて、木材を販売する際の相手企業との価格交渉等も行います。
派遣された地域で信頼関係を築くのには少なくとも5年かかるそうですが、地域で頼りにされるあこがれの職業にもなっています。
プロが自分の権限で責任を持って愛情を掛けて行うことだから成果が出る、というのは至極当たり前のことなのかもしれません。
スイスに学ぶ日本の林業の育成
そうした流れの中でドイツの林業関係者を日本に招き、研修を受けたり、そのシステムを取り入れる自治体や業者も多くなってきました。
一方で、日本有数の林業県である奈良県は、そうした動きとは一線を画してスイス林業をモデルにする道を選んでいます。
きっかけは奈良県とスイスのベルン州が友好提携を結んだことでしたが、林業施策としてはもしかして画期的と言えるかもしれないということで話題になりました。
スイスの林業と言っても、あまりイメージが浮かばないかもしれませんが、日本の林業とスイスのそれは非常に親和性があるということなのです。
スイスは、森林面積が広いわけではなく、林業の産出額も木材生産量も大きくありません。
森林地帯の地形は急勾配で、小規模な私有林が多く、しかも不在地主が多い。
しかし、戦前の一時期「スイス林業は世界一」と言われていました。
とくにベルン州にあるエメンタールの森は「林業の聖地」と呼ばれ、そして今も高品質材の生産を手がけています。
一方、日本の条件も地形は急峻、小規模な森林所有と、多数の不在山主。
木材生産量や産出額もそんなに多くはなく、かつて隆盛を誇り、高品質の材には定評がある…。
もっと言うなら人件費が高額であることも共通点です。
つまり両者の林業には似通っている面が多々あるのです。
ただスイスの林業は黒字で隆盛を誇っているのに、日本の林業は低迷中。
この点が大きく違っています。
では何が違うのか。
それはスイスの林業は「考えること」を止めていないからだそうです。
スイスも日本も基本的にはやっていることやノウハウは同じだそう。
しかし、スイスでは伝統だから、教わったからという理由でやっていた知識や技術ではなく、論理的に「なぜ行うのか」「行うことで何が変わるのか」ということを常に問うそうです。
なぜ、この作業をするのか、という理屈を知らずに(考えずに)行う作業は、応用を生まず、ときに資金を無駄にしています。
その土地の気候や地形を知る。現在の森の状況を土壌や植生、樹冠の形状から判断する。
過去どんな手入れをしたのか切株などの痕跡から推定する。
今後このまま放置したらどうなるか、どんな手の入れ方をすればどんな森に誘導できるか予測する。
最小限の手間とコストで行える方法を考える……。
国などの指導に疑問をはさまず、言われた通りに行わないと補助金がもらえない現状はあるかもしれません。
ドイツやスイスの成功例をまるごと真似るのではなく、日本に合うように応用する。
大規模化や機械化など彼の国の表向きの形ばかり真似ようとするのではなく、自国の状況や環境に合った改善を加えていくことが一番大事なことなのかもしれません。
関連ページ
https://www.kagura.co.jp/kagu-cat/solid-wood/
参考資料
コラム「森林を守る」
http://www.chilchinbito-hiroba.jp/column/contents/forest/vol12.html
「スイスに学ぶ日本の林業に欠けているもの」
https://news.yahoo.co.jp/byline/tanakaatsuo/20150623-00046899/
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