木の好みと文化の歴史を知る
2017.12.10
皆さんには「好きな木」はありますか?
そんなことは考えたこともない、という人もいれば「わたしは○○が好き」と即答できる方もいることでしょう。
食べ物の嗜好はそれぞれの国によって違います。
また、花の好みや香りについてもその好みは地域によって違うように、「木の好み」もまた同じではありません。
今回はその「地域によって異なる木の好み」についてお話していきましょう。
西欧の木の好みと日本との関係
イギリス人はナラの柾目が特に好きで、古くから「獣の王者はライオンだが、木の王者はオークだ」と言います。
イギリスはもともと木材資源に乏しい国であるため、用材はほとんど輸入に頼っており、チェコスロバキアのオークが最高で、その次はカナダ産のオークだと評価をしていました。
ところが日本でいうところの明治の末頃、当時の経済界の重鎮であった益田孝(鈍翁)男爵がイギリスに行ったとき、彼らが珍重しているオークが、わが国のナラに似ていることに気がつきました。
そこで北海道産のナラを輸出してみたところ、カナダ材に次ぐ評価を得て、その後も引き続いてイギリスで愛用されたことが、江崎政忠氏の記録に残っています。
それまでわが国ではナラは雑木とよび、薪炭材としての用途しかなく、これは当時の木材界にとっては常識を破る出来事であったといって過言ではありませんでした。
また、以前にもお話したように第二次大戦の後に進駐軍が日本に滞在した際には、日本政府は駐留軍が隊内で使用する家具を作って納入しました。
アメリカ軍はブナの素地塗りの白っぽい家具を指定しましたが、イギリス軍は濃い褐色に塗ったナラの家具を納入するように要求しました。
アメリカ軍の求める仕上げはそのまま当時の家具の塗装の流行になって日本国内に広く普及しましたが、イギリス軍の仕上げは日本では馴染みが深くなることはありませんでした。
日本人は元々白木を好む文化があり、とくに戦後の傾向としては重厚さよりも明るさが望まれたからです。
たまたま輸出した材が輸入国の高い評価を受けて、その木が逆に本国で見直されたという例はほかにもあります。
例えば「ベイヒ」がその一つです。
この木はローソンサイプレス、またはホワイトシダーとよばれ、それまでアメリカではあまり高い評価を受けていませんでした。
しかし、日本に輸入されたのち「米檜」として日本国内で評価を高めたために、本場のアメリカでも見直されたということがありました。
見方が変わればその在り方が変わる、ということは往々にしてありますが、このように木の好みや評価ひとつをとっても同じことがいえるということがわかります。
海外から流入する木がもたらす暮らしの文化の変遷
ヨーロッパがその勢力を海外に求める大拡張時代に入ると、新しい土地が発見される度に、そこの珍しい木が船で母国に運ばれるようになります。
はるばる海を越えて持ちこまれたそれらの木は、家具づくりの職人にいろいろな影響を与えました。
その中で特筆されるべきはマホガニーの発見です。
この木は西インド諸島、中米、およびコロンビアからベネズエラの北部が生産地ですが、最初にこの木に注目したのは、1595年にウォルター・ロリー卿に従って旅をした一人の大工でした。
はじめのうちは狂いの少ないことと、大木であるため幅の広い板のとれることから便利がられ、船や住宅の用材として使われていたに過ぎませんでした。
マホガニーが家具の用材として本格的な脚光を浴びる時代がやってきたのは、それから200年も後のことです。
18世紀の後半になって、ルイ様式の家具が流行し椅子の脚はいわゆる猫脚が人気になりました。
そこでマホガニーの丈夫でねばり強く、こまかい彫刻を施しても折れない特性が重宝されて、にわかに需要が増したのです。
また、その後も家具の流行は「新古典主義(ロココ主義からの脱却)」となり、猫脚から神殿の柱などをモチーフとした直線的なデザインが主流となりますが、そこでもマホガニーは重宝され続けることになります。
家具の用材としてもう一つ人気を集めた例はシダーがあります。
これも南米の家具職人たちの間で細々と使われていたものですが、ヨーロッパに運ばれて加工のしやすさと狂いの少ないことが評価されて、流行しました。
当時全世界にわたって広く領土を持っていたのは、ポルトガルとスペインで、これらの国は植民地から運んできた木に合うような新しいスタイルの家具をつくり、それを流行させていったのです。
ヨーロッパの人たちの間では、このようにして広く世界の各地から新しい木材を求める風潮が普及していきました。
それらの中には「ロッグウッド」のように染色の材料として珍重されたものも含まれていました。
ロッグウッドとは、メキシコが原産のマメ科の常緑高木で、心材からヘマトキシリンという染料が取れます。
ログウッドとも言われ、その木は邪気を払うという言い伝えから仏衣の染料にも使用されました。
ナポレオンのコートやイギリス艦隊のネルソン提督のジャケット、また、海賊の服もロッグウッドで染めたものが多かったといいます。
使用する媒染によって紫やこげ茶、グレーからそれらの色味を含んだ黒っぽい濃色に染めることができ、「本黒」と呼ばれ黒色の染にも利用され、喪服の染にも用いられました。
当時、繊維は主として草木染めによっていたのでありますが、マメ科に属するこの木は「黒色の染料」として最高の評価を得ることになったのです。
世界中に数多ある木はそれぞれに特性を持ち、その性能は海を超えることでさらに人の役に立つものへと変化していきました。
多くのものが出尽くした感のある現代でも、ひょっとするとまだまだ知られていない「木の役割」が出てくるかもしれません。
関連リンク
https://www.kagura.co.jp/point/01.html
https://www.kagura.co.jp/point/02.html
参考文献
鹿島出版会 小原二郎著書「木の文化」
小学館 平井信二監修・小原二郎分担訳「大図説世界の木材」
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