人間工学と家具 -その1-
2017.10.23
当コラムで不定期ではありますが、ご紹介している「人間工学」。
前回までは人間工学とはどのようなものか、またどのような方面に応用されているかについてお話してきました。
今回は、具体的にその対象を家具に絞って、その中に人間工学が取り入れられたときにどのような見解となっていくのか話を進めていきます。
住居の中で家具はかなり重要な部分を占めます。
それにも関わらず、特に日本では単なる道具として捉えられているケースが少なくありません。
これでは家具の意義が薄いものになってしまいます。
そこで、まずは「家具とは何か」という事柄を人間工学的な側面から考えていきたいと思います。
日本とヨーロッパの「家具観」の違い
日本は元々ノー・ファニチャー(家具を使わない)の生活をしてきたことは以前、当コラムでもお話ししました。
(参照:「インテリア・デザインと人間工学」http://kagura.sakura.ne.jp/kagura/old_img/column/other/170930214313.html)
日本人にとって家具は単なる道具、といった認識が強く残っていることはそこに遠因があるともいわれます。
しかし、ヨーロッパにおいて「ファニチャー」という概念は少し異なったものになります。
ヨーロッパにおける家具とは、生活の道具ではなく、暮らしていくのに必要不可欠な一部です。
また、生活を豊かにするためのものであり、おもてなしをするための大切な物と捉えられています。
さらに椅子の形状や高さは「権威」の表れであったというような、文化や古い歴史からの由縁も関係しています。
ここから見えてくるのは、ヨーロッパの人々の「家具に対する価値観=家具観」が日本とは異なることです。
それは建築の様式や宗教的なもの、様々な事象が絡み合ってそのようになっているのですが、何事もそうであるように、国が違えばひとつのものに対する考え方も全く変わってくるのが分かります。
目的の違いからくる家具の分類
そして冒頭の「家具とは何か」という点についてのお話に続きます。
一言で「家具」といっても、人間工学的な側面から見た場合、目的によって分類されるべき点が存在することについて触れなければいけません。
例えば家具の中で「収納を目的とするもの(=チェストや戸棚など)」と「身体を支えることを目的とするもの(=チェアやベッド)」とは当然ながら全く違った目的をもつものです。
これを言い換えれば、家具には、「建築的な家具(建築系家具)」と「人体的な家具(人体系家具)」の2つがあるということになります。
「椅子は小さな建築である」という言葉が示すとおり、ある側面ではまた違った見解があるものですが、前者はチェストや戸棚であり、後者はチェアやベッドになります。
このなかで椅子やベッドは身体に接してそれを支える役目を持つものであり、むしろ「体具」と呼びながら衣服と同じ性格を持つものだ、と考えた方がはるかに本質に近いと言いえることができるでしょう。
この違いは「設計の基準となる原点の違い」からくるものとも言い換えることが出来ます。
建築においては、設計寸法の原点はすべて床面にあります。
それは足のかかとが床面にあって、全ての人体寸法はそこから決まってくるからです。
したがって、チェストのような建築系家具の寸法の原点が床面にあるのは当然のことです。
そこから、さらに食器棚なのか、飾り棚なのか、本棚・TV台…といった目的や(これも以前ご紹介した)可動域などをふまえた設計が加わってくるのです。
しかし、人体系家具の原点は例えばチェアであれば、座ったときの「坐骨結節点(おしりの骨が座面に当たる位置)」に置かなければなりません。
なぜなら座位における人体各部の寸法は、目の高さも、肘の位置も全てこの「坐骨結節点」から決まり、足のかかととは無関係になってしまうのです。
(しかし実際は足裏が床に着くほうが快適性も高く、ここも考慮しての設計も重要です)
そのため、椅子の機能的な寸法はすべてこの点を原点として、前後・左右上下方向に決められていきます。
この原点が変わる=目的が変わることで家具の寸法や仕様が変わってくることは人体系家具も建築系家具同様です。
そのうえで、使い勝手の良さを追求しながら、そのために人間工学的見地をふまえた設計・製作がされているのが優秀な家具であることのひとつの要因となります。
次回はこの続きともなる、椅子の寸法や椅子の研究について、「家具と人間工学 -その2-」でお話していきましょう。
関連リンク
https://www.kagura.co.jp/chair/
https://www.kagura.co.jp/board/
http://kagura.sakura.ne.jp/kagura/old_img/column/
参考文献:
実教出版株式会社 小原二朗著書「暮らしの中の人間工学」
講談社 小原二朗著書「人間工学からの発想-クオリティ・ライフの探究」
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