椅子のモダンデザインと家具蔵の椅子2
2017.6.14
前回の項では、「椅子のモダンデザインと家具蔵の椅子」と題して、「椅子」という家具の成り立ちや近代までの発展の歴史、そして、我々家具蔵のチェアとの関連性を紐解いてみました。
こうして見てみると、「椅子」や「家具」といった生活に密着したモノは、その風土や歴史、国民性や考え方、様々なものを表す格好の材料であることがわかります。
意外なところから意外なコトを知る。
こうしたいわゆる「発見」が多ければ多い程、日常は面白くなっていきます。
このコラムが皆さんのそうした知的好奇心をくすぐるものになれば幸いです。
前回のコラムでは、20世紀中盤までの椅子を中心にしたモダンデザインのお話でした。
この項では、その続きとなるお話をご案内したく思います。
20世紀以降のモダンデザインの流れ -第二次世界大戦後?-
戦後のヨーロッパが著しい産業の復活を遂げる一方で、戦勝国であり巨大な工業国となっていたアメリカも、インテリアデザインや家具産業の先進地域の地位を確かなものにしていきました。
1950年代に入ると家具の主流は「工業化」「量産化」をテーマに掲げるアメリカンデザインに移行するようになります。
手作りの木の味を活かした北欧家具に対して、アメリカの家具はアルミ・プラスチック・合板などの工業材料を使用して大量に生産できるところに特徴がありました。
そして、チャールズ・イームズやジョージ・ネルソンといった工業デザイナーたちが、家具の設計者として活躍するようになってきた、というわけです。
他にも、エーロ・サーリネン、ハリー・ベルトイア、ウォーレン・プラットナーなども後世に残る名作を生み出してきました。
一方、イタリアにおいては、第二次世界大戦の後にミラノを中心にジオ・ポンティの活躍が顕著でした。そして、1960年代に入って、家具・インテリアデザインの流れはイタリアで隆盛を迎えることとなります。
イタリアの特徴はデザイナーの持つ感性や個性がそのまま形態に表れていることで、従来の家具の概念からみると、著しくユニークな面を持っていました。
北欧やアメリカの家具と比べると、合理性や機能性においてはやや十分ではない、という意見もありますが、反面、遊びの要素や造形的な面白さが取り入れられたものでありました。
また、この時期には充填材として、ウレタンフォームなどの新材料が現れた頃でもありました。
この影響で「ルーズクッション」や「フリーフォルム」と呼ばれるソフトな家具が造られ、特徴のひとつとなったことは時代を語る上で重要な要素です。
代表的なデザイナーとしてはトビア・スカルパ、ビコ・マジェストレッティ、ジョイ・コロンボ、マリオ・ベリーニなどが有名です。
1970年代に入り、オイルショックを迎えると、デザイン界にも一時、沈滞期が訪れます。
イタリアのデザインも活発さを失いましたが、1980年代に入ると再びポストモダニズムをテーマに、家具デザインが復活してきました。
一方、西ドイツではオフィス家具を中心にした家具デザインの分野に新しい展開が始まりました。
それはオフィスのオートメーション化が進んでいくなかで、機能性を重視したオフィス家具が開発され、生産が続けられることを意味します。
そして日本では、特に戦後において、それまでの他の産業同様に欧米からの影響を強く受けつつも日本独特の伝統的な感性に裏打ちされた家具が、剣持 勇や渡辺 力、豊口 克平によってつくられてきました。
また、工業デザイナーである柳 宗理らの出現で、日本の家具やインテリアデザインは、国際的にも高く評価されるようになり、現代に続く後進達の礎となっています。
以上、2回にわたって、特に20世紀に入ってからのデザインの主要な流れをおさらいしてきました。
冒頭にもお話ししたように、家具のデザインは現代の新しい生産技術や材料を取り入れながら、一方では国民性やその風土などを反映しつつ進歩してきた歴史があります。
このことは家具が人間生活と文化・社会に密接な関連を持って成り立っていることを物語っているものです。
そこで我々家具蔵のチェアをはじめとした家具を考えてみます。
日本は世界有数の森林国。
しかし、一方で世界でも類を見ないほどの「使い捨て」の文化が横行している国でもあります。
また、時代とともに変わる家族の在り方や個人のライフスタイルにおいて、本当に豊かな時間とはなんなのか、これを追求できる豊かな世相の背景も持ち合わせています。
そこから導き出せる家具蔵の答えのひとつが、我々のキーワードのひとつである「一生モノ」という価値観であり、無垢の木だからこそ出せる手触りや座り心地といった、五感で感じる幸せなのではないでしょうか。
その先には、デザインを超えた普遍的な「温もり」といった万国共通であり、太古から人が追い求めてきた理想があると考えます。
椅子というひとつのテーマから見えてくる様々な発見。
これを読んで下さった貴方も是非、新しい「発見」を体験しに店舗へ足を運んでみてください。
参考文献:彰国社刊 小原二朗・加藤力・安藤正雄編「インテリアの計画と設計・第二編」
彰国社刊 壁装材料協会発行「インテリア学辞典」
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