人体の作業域について
2017.10.16
前回、当コラムで「人体計測」というテーマについてのお話をしました。
(「人体計測という考え方」 http://kagura.sakura.ne.jp/kagura/old_img/column/chair/170930213558.html)
今回はその人体計測とも関連深い「作業域」という分野についてのご紹介です。
作業域とは
「人間が一定の場所にあって身体各部位を動かしたとき、そこに平面的あるいは立体的に、ある領域の空間が作られる」これを「作業域」といいますが、少しわかりにくいですね。
簡単に言うと、例えば「腕」であれば「最大限手を伸ばしてモノに手が掛かる範囲・肘や肩を屈伸もしくは回せる範囲」
といった、いわゆる身体の各パーツを動かすことのできる範囲のことです。
作業台の寸法や機械の制御装置の位置などを考えるとき、この作業域を念頭に入れて設計しないと、無理な動作をしなければならなくなり、その結果としての事故や作業能率の低下や作業者の疲労を招くことになってしまいます。
また、椅子に腰かける動作やテーブルで作業をする際にも、身体自体が占める空間も考慮に入れる必要があります。
家具のデザインや配置を決める場合、座席の間隔を決める場合には、人体の静的な寸法よりも、むしろ動的な寸法の方が大切です。
(ちなみに人体の幅は、立っている状態でおよそ身長の1/4程度といわれています。
また奥行きは1/8程度だそうです)
こうした「作業域」はそれぞれ各動作によって呼ばれ方があります。
作業域の名称
■水平面作業域
私たちが何か作業をする際、デスクや作業台の上のような水平面で行われることが多いはずです。
ここでの作業域を「水平面作業域」といい、さらにそれは「通常作業域」と「最大作業域」に分けられます。
前者の「通常作業域」は、上腕をかるく体側につけて肘を曲げた状態で自由に手の届く領域をさし、後者は思い切り上肢をのばした場合に達する最大領域をさします。
例えば、TVゲームのコントローラーなどはこの「通常作業域」から割り出されたサイズやボタンの配置が操作性を生んでいます。
そしてこの作業域は、ただ単に指先が届くだけの領域ではなく、手で物をにぎったり、指先でつまんだりする動作が問題なく可能である領域でなければなりません。
■垂直面作業域
腕を上下に動かしたときに表現できる領域です。
主に機械の操作パネルの設計やコントロール装置の部位の位置を決める場合に必要となります。
アメリカの自動車会社「ゼネラルモーターズ」は、高さのある作業イスに腰掛けて腕を上に伸ばし、且つ上下に動かした動作=体前面の垂直面作業域について調べ、さらにその垂直面作業域は5つの領域に分けることができることを発表しました。
第1領域…58cmから120cmの高さ。(立位で楽に手の届く範囲)
第2領域…120cmから141cm(手を肩以上に上げる必要がある範囲)
第3領域…58cm(前屈あるいはしゃがむ姿勢が必要な範囲)
第4領域…153cmから187cm(手を上に伸ばさなければ届かない範囲)
第5領域…58cm以下(しゃがんでさらに膝をかがめなければならない範囲)
この5つを手に届く範囲から分けたのです。
これは家具や住宅の分野に当てはめると、特に「収納」において応用できる部分が多いものです。
いわゆる先ほどの「第1領域から第5領域」を、「モノの出し入れのし易さ」「使用頻度の順番」と考えると分かり易くなります。
ここのところ、収納術に関する書籍が多く出版されていますが、実は殆どがこの領域の考え方を基にしているともいわれます。
■立体作業域
これまでの「垂直面作業域」と、その各点における「水平面作業域」の組み合わせが「立体作業域」です。
この立体作業域に関しても、通常作業域と最大作業域が棲み分けられていて、「通常作業域は肘を曲げて楽な体制で動作ができる範囲」「最大作業域は、肘を伸ばした状態でどこまで作業が可能かの範囲」となります。
作業を能率的に、しかも疲労を少なく続けるには高さなどを含めた「どの位置で作業をすることが必要なのか」を考慮しなければなりません。
(これを作業点、といいます)
例えばシステムキッチンのワークトップはおおよそ85cmの高さが一般的ですが、これもこの「立体作業域」という考え方から導き出された人体計測・人体工学の賜物なのです。
■必要空間
どんな作業を行う際にも、その姿勢に無理があると、必要以上の労力を要することになってしまいます。
反対に余裕がありすぎても、他の部分での効率性が失われてしまいます。
こうした作業性が良く疲労も少ない、丁度良い作業空間のことを「必要空間」と言います。
この必要空間は、概ね30?・60?・90?と3の倍数で語られることが多く、航空機のコックピットや自動車の
操縦席などはこうした考えが基になって設計されることも多いようです。
住まいや普段の生活においても、いわゆるテーブルの上で快適に過ごせる最低限のスペース(=パーソナルスペース)は幅60cm・奥行45cmと言われています。
たしかにこちらも3の倍数。
こうした定説はやはり様々な実験から導き出されたものだということがここからも読み取れます。
日常で何気なく使用しているものや過ごしている空間にもこうした専門的な学術が至るところで応用されています。
何故この形状なのかな?
どうしてこのデザインになったのかな?
ここにこれがあるから使いやすいんだな…。
そうした発見や気付きがある毎日はきっと、いつもの暮らしをさらに面白く、興味深いものにするはずです。
貴方も身の回りのものから、「何故?」「どうして?」を考えるときっと面白い発見がありますよ。
参考文献:
実教出版株式会社 小原二朗著書「暮らしの中の人間工学」
講談社 小原二朗著書「人間工学からの発想-クオリティ・ライフの探究」
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