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木の家具納品実例 ~お客様訪問記~ 「自然の光・自然の色(LPA 面出 薫さん / 東京都・中央区)」

2021.5.17

 

東京駅丸の内駅舎、六本木ヒルズ、京都迎賓館、東京国際フォーラムなど、多くの建築や都市の照明環境の創造を手掛けるプランナーとして、日本を代表する照明デザイナーである面出 薫さん。

近年の作品では、太陽光の移ろいに合わせて照明の色温度を細かく変化させた高輪ゲートウェイ駅舎が印象に残ります。

隈研吾氏が「折り紙をモチーフにして」設計した駅舎。

日没後に薄暗がりの中で見る、全体が淡く発光し軽やかに浮遊する姿はこれまでに見たことのない灯りのデザインだと感じました。

 

面出さんの新しいお仕事場に家具を納品してからちょうど一年となった頃に、「良かったら家具の様子を見に来ませんか?」というお誘いをいただきました。

普段あまり目にする事が出来ない納品事例でもある「オフィス空間に置かれた無垢材家具」の姿を見てみたいという思いとともに、お邪魔させていただきました。

納品時はまだ設備工事の終盤で、どのような空間が完成して、そこにお届けした木の家具がどんな雰囲気で設置されるのか把握できない部分もありましたが、1年後の家具の姿を拝見し、その場所でお話をお聞きしたことで、面出さんが意図されたことを体感し、インテリアとして木の家具が持つ魅力を少なからず再発見する体験となりました。

 

そこにはこれまでにない新鮮な驚きとシンプルな感動がありました。

この訪問記では面出さんのお話をご紹介しながら、そのあたりもお伝えしたいと思います。

 

 

モノトーンとの対比


製作した家具は、スタッフの皆さんが食事や打合せなど多目的に使用されるラウンジに置かれるチェリー材の大きな耳付テーブル、デザインや素材が異なる数種類の椅子、長いベンチ、そして窓際に広がる作業カウンターに合わせた座面の高いカウンターチェア。

ラウンジはオフィスの中でも、川沿いの桜並木が眺められる明るく開けた場所に位置していて、窓際には大きな観葉植物の鉢がたくさん置かれています。

窓外の木々の緑と観葉植物の緑が一体となって、建物の中と外が一体となったような気持ちのよい空間です。

お届けして一年を経て、チェリー材の色は早くも深いアメ色に変化し、ウォールナット材は少し明るいマイルドな表情に変わっていました。

テーブルは、木の呼吸を妨げてしまうテーブルクロスなどは被せずに、そのまま使用されているので小さな擦れキズは点在します。

しかし、清潔に保たれた木肌には自然なツヤが増していて、皆さんが毎日大切に使ってくださっている事が良くわかります。

そしてしばらくの間、脚金具の緩みなど点検させていただいているうちに、いつも見慣れているはずの私たちの家具の姿が、この場所に置かれる事で少し違ったものに見えていることに気が付きました。

無着色である家具の木の色や無垢材の質感が、いつもより強く、フレッシュに感じられたのです。

そのことを面出さんにお伝えすると、こんなお話をしてくださいました。

「私自身もそうでしたが、これまでの事務所では忙しいスタッフは自分の机でそそくさと昼食を済ませる、という少々せわしない状況がありました。

そこで、新しい事務所ではスタッフが皆でゆっくりと食事をしたり、打合せをする場所があったら、と思いこのラウンジスペースを考えました。

ここは窓から桜並木と水面が見えることもあり、そこに置く家具はあたたかさを感じる素材、本物の木にしたかったのです。

インテリア的には、オフィス空間はどうしても直線的で硬い素材感、モノトーンになりがちなので、その対比として木の質感があると、ほっと一息できるラウンジになるでしょう?

そしてせっかくだったら長く使えるようなしっかりしたもの、上質なものを選びたいとも思いました」

一般的に、デザイン事務所のインテリアは白や黒のモノトーンでまとめられたクールでモダンなスタイルをイメージします。

お邪魔した事務所もスタッフの皆さん個々のデスクスペースは、見事にモノトーンで統一されたスタイリッシュなインテリアになっています。

そのような空間の中で、ラウンジに置かれた無垢材家具の存在は、木という素材本来が持つ魅力がより一層強調されているように見えました。

 

家具選びについて


面出さんは以前より家具蔵というショップの名前だけはご存じだったそうです。

今回新しい事務所の家具を考えるにあたって、色々なブランドを検討される中で初めてご来店されました。

どのような部分が選択のポイントになったのかを伺いました。

「まず価格が商品の内容に合っているというか、妥当性があるという部分は大きいと思います。

あとはショールーム(表参道店・一枚板ギャラリー)に天板が沢山置いてあり、木目が実際に見られたこと。

素材としてはウォールナットは漠然としたイメージとしてありましたが、テーブルにチェリーを提案されたところ、その明るい色合いが感じ良かった。

ラウンジの窓の外が一面の桜並木という偶然もあり、気に入りました」

家具蔵の表参道本店には、世界中から集められた貴重な原木を製材し、長い時間を掛けて乾燥させた天板を、一堂に見る事ができる「一枚板ギャラリー」が併設されています。

個性の異なる板の「顔」を見ながらお気に入りに出会うことができるのです。

それでも、樹種、サイズ、木目(=年輪)、形、杢(=成長過程で現れる様々な表情)、などの条件から常にその場でベストのマッチングが行われるとは限りません。

そこには私たち人間という生き物と、同じく生き物である樹木との「生き物同士」の相性、あるいは出会いの運とでもいう茫漠としたものがあり、面出さんの場合はそのタイミングが良かったのかも知れません。

椅子は、作業、寛ぎのスタイル、囲む人数などを考慮し、ご提案した中から数種類が選ばれました。

伸びやかなベンチと組み合わせて、形の異なる様々な椅子たちが大きなテーブルを囲む様子は、人が大樹の傍に自然と集まってきた様子にも見えます。

スタッフの皆さんも、違う椅子に座ることで変わる身体の姿勢や、そこから生まれる気分の違いを楽しんでいるようです。

 

自然光に学ぶということ


面出さんが執筆された様々な出版物を拝見すると、興味深い考え方に出会うことができます。

その中に「光をデザインすることは、陰影をデザインすることである」という一文がありました。

照明のデザインとは、「まず光ありき」ではなく、出発点として暗闇がある。

その闇の中にある空間、建築、環境に本当に必要とされる光の姿はどのようなものかを編み出していく作業である、という考え方です。

ものごとの本質を見極め、切り取って浮かび上がらせる、という編集的な側面と創造の妙技を感じます。

そして、もうひとつ面出さんは「自然光に学ぶ」というデザイン原理を様々な場所で提唱されています。

いわば人工光である照明を考えることと、自然光がどのようにリンクしてくるのでしょうか。

「人間は何億年もの間、自然光だけで生きてきました。

上からは空の太陽(昼光)、下からは地球の中心にあるマグマや火(炎)です。

そこに人工的な光が現れ、時にそれだけで何でもできるという考え方になったのは、ほんの100年程前からでしかないのです。

照明デザインは自然光に学ばなければなりません。

自然光には、誰もが納得する快適さがあります。

照明のデザインとは自然界に存在する様々な情景に学び、陰影を丁寧にデザインすることなのです」

これはやはり一つ目の考え方、「陰影のデザイン」につながるものでした。

そして、その後に続いて語られた言葉に、面出さんのお人柄と、世界に通用する普遍的なビジョンをはっきりと見た気がします。

 

「仕事で迷った時、手が止まった時は、よく自然に目を向けます。

水面に太陽の光りが反射してキラキラしていたり、木の葉に日が当たる様子、木漏れ日を見ていると、『ああ、それでいいんだ、これだけでいいんだ』と安心します。

それは謙虚になる、ということでもあります…」

 

写真提供:LPA

 

 

 

 


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