シリーズ~建築家によるこだわりの空間と無垢材家具の奥深き世界~ ⑤
2021.8.20
インテリア雑誌や住宅雑誌、建築設計事務所のHPなどを見ると、居心地の良さそうな空間に、恐らく住まい手や設計者がこだわって選んだのであろう家具、とりわけ木の質感に溢れる無垢材家具が置かれている風景が目を引きます。
建築空間は、そこで人間が暮らす、またはある目的を持って過ごすことを目的にしてデザインされています。
配置される家具は「生活の道具」として建築空間と重要な係りを持ち、空間だけ、家具だけで存在する時よりもその魅力や本質をより強く現します。
「シリーズ・建築家によるこだわりの空間と無垢材家具の奥深き世界」では、家具蔵の無垢材家具が置かれた建築家の設計によるこだわりの空間が、どのような考えの元に設計デザインされ、家具蔵の無垢材家具が選ばれることになったのか、納品後のリアルな暮らし、使っている模様を交えてお伝えする事を目的にしています。
家具蔵のホームページ上のコンテンツ「事例&お客様の声~建築家とのコラボレーション」の内容を元に、実際にスタッフが訪問取材に伺った際のエピソード、裏話などを交えてご紹介します。
前回は…、埼玉県北部、昔ながらの街並みが残る静かな住宅街に計画された、木の香りにつつまれたモダンな木の家をご紹介しました。
沢山の設計事務所や、建築家の事を調べ、住宅雑誌なども研究し尽くした施主が最終的に選んだのは東京で活躍する建築家でした。
ゆとりのある敷地を利用して、ゆったりと展開された平屋の一部に2階の空間を擁する伸びやかな建築は郊外の落ち着いた街並みに自然に溶け込みながらも、実は良く見ると周囲の凡庸な住宅とは一線を画す美しいファサードデザイン。
建築家による住宅が奇抜な自己主張ではなく、熟考され、抑制の効いた良質な住宅建築として実現された好ましい実例です。
これから家づくりを考える方はぜひご覧になってみてください。
そしてシリーズ第五回目の今回は…。
建築家・泉 幸甫さん(泉幸甫建築研究所)が手掛けられた山本邸のご紹介です。
泉さんは1947年熊本県生まれ。NPO法人「家づくりの会」の設立に係わった中心メンバーであり、 会が主催する「家づくり学校」の校長を勤められています。
また、日本大学教授、工学博士でもあり、東京建築賞最優秀賞、日本建築学会作品選奨など受賞作品も多数あります。恐らく日本の木の住まい、住宅作家・建築家というカテゴリーに於いては第一人者と評されるカリスマ建築家です。
実際にお会いした印象は、どこか舞台俳優のような毅然としたオーラを纏いながらも、ものごとの本質を忌憚なくフランクに語って下さるお人柄に、熟練された建築家の凄味を感じました。
因みに、最近話題となったドラマ「リコカツ」の主人公が住む集合住宅は、泉さんの代表作のひとつでもある「泰山館」でした。
今回ご紹介する住宅は、アパート併用住宅。前述の泰山館や、現在でも伝説的な人気と特異性を持つ「アパートメン傳」など、集合住宅には定評のある泉さんの設計された空間がどのようなものであるか、非常に楽しみにしての撮影・訪問となりました。
「ご自宅で茶会をされたいという要望や、バス通りに面した立地など制約が多かったのですが、それがかえってプランニングを固めるのに役立ちました」
というお言葉の通り、住宅とアパート部分の動線、フォーマルとプライベートの意識の分け方など、それ程広大とは言えない市街地のコンパクトな敷地を上手く利用していて
「これ以上の正解は無いのではないか」
という確信に満ちたプランとなっています。
「素材使いは私が長年培ってきた手法を踏襲しています。
木、石、紙、鉄などの本質的な美しさを、ひと手間かけてシンプルに引き出すような見せ方です。
その中で家具蔵の家具は、様々なインテリアの要素がミックスしている室内にうまく調和したと思います。
伝統と革新の美しい融合、と言えるものかも知れません。例えば和室の欄間(らんま)ですが、この複雑な組子の造形は、実は現代のハイテク技術も生かされています。
幾何学模様をコンピューターで作成し、そのデータを加工機械に送り、正確な寸法にカットされたパーツを建具職人が組みあげる事でこのような美しい造形が比較的容易に生まれます。
伝統をそのまま継承することももちろん大切ですが、現代ならではの技術力や発想力をもって、また新しい価値観を生み出していく。
そこに普遍性や本質的な美、面白さがあれば、それが新しい伝統になり得るという事ですね」
一方で、施主の個人的な美術品のコレクションの数々も住まいの各所を彩り、その調和は実に見事です。
詳しいお話を伺うと、その美術品のひとつひとつについて、どの場所にどのように設えるのが良いのか、徹底的に検討して住宅の設計にも反映しているとの事でした。
住宅を設計する際に、家具の事もよく考えてあると住みやすく満足感のある家になる、という考え方は最近良く言われるようになっています。
ここでは個々に奥深いエピソードを持つようなレベルの高いアートピースたちにも最高の居場所を用意し、同時に家具とのバランスも配慮されている、というこれまでに見た事も無いような配慮とセンスに満ちた実例です。
美術品についての建築家の造詣、見識が深く、施主との相性が良い事も条件になるかも知れませんが、建築家・泉さんの多彩なお仕事の一端を実際に拝見する貴重な体験となりました。
続けて見せていただいたアパート部分も、およそ一般的な賃貸アパートとは全く異なる、木の温もりと現代的な美的センスに満ちた空間でした。
安易に望むのは難しいのですが、このような建築がもっと多くなれば、日本の賃貸住宅も豊かな文化資産として後世に伝え、残し、循環させていけるのではないかと考えます。
「アームチェア ヴィンテージ」、「Vチェア」(共にウォールナット材)の美しい削り出しの曲線が、直線で構成された端正な空間に表情を添えています。
ダイニングの「テーブル ヴィンテージ」はクルミ材。脚の絞り形状は天板とのバランスをみて泉さんがデザインしました。
リビングは床材と同材のウォールナット材を使用。ソファは赤い革を使用してコントラストを出すことで、リビングが引きしまった空間になっています。
階段ホール全景。玄関引き戸の脇に、茶庭に置かれるつくばいを配置しています。この階段を露地と見立て、特別な空間へ向かう「結界」にするという演出でもあります。
水回り、寝室へと向かう廊下の突き当たりには、天窓からの光がお気に入りのアートを照らす飾り棚。
土地柄や周囲の街並みから武蔵野の面影を連想させるファザードを意識して設計デザインされています。
玄関ホールからリビングに入る格子の引き戸と隣接する茶室の欄間。整理された構造材によってその対比が際立ちます。
1階は賃貸アパート。塀は立てず生け垣で各住戸の玄関を隠しています。アプローチや玄関庭の植栽は泉さんがプランをつくり、直接植木畑を訪れ、枝ぶりを吟味しながら選んだものです。植栽にもこだわりのある泉さんは「気に入った植木との出会いも嬉しい」とのこと。
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