木の家具と暮らす ~私たちのKAGURA STYLE~ #03
2022.2.23
建築家 × 家具蔵 コラボレーション実例紹介 【その1・前半】
建築家の作る空間。
それは閃きやセンスだけではなく、膨大に積み重ねられた個人的な体験や、ノウハウに裏付けられた手作りの作業によって生まれるものづくりに他なりません。
ここでは、それと同様に「丁寧な手作業による上質なものづくり」を標榜し、行っている私ども家具蔵の仕事が建築家の感性や手掛けた空間と響き合い、見事に形となった個性豊かなインテリア実例をご紹介します。
泉幸甫建築研究所・泉 幸甫氏
泉幸甫建築研究所代表・日本大学の教授であり工学博士の泉 幸甫(いずみ こうすけ)さん。
1947年熊本生まれで、NPO法人「家づくりの会」の設立に係った中心メンバーでもあります。
会が主催する「家づくり学校」の校長も勤め、東京建築賞最優秀賞、日本建築学会作品選奨など受賞歴も多数な国内を代表する建築家の一人です。
「日本の伝統的素材の豊かさを後世に残したい」
―家づくりの会の活動では生産現場へ足を運ばれるようですね。
「家づくりの会」は、1983年、若い建築家9人によって設立されました。
当時私達は、多くの建築材料が工業化・均一化され、日本の伝統的な家づくりが失われつつあることに危機意識があったのです。
例えば、左官壁は、自ら作り出した生の素材を扱うなかでの多様な味わいがありました。
また日本各地ではその土地ごとに左官職人特有の個性があり、地域の材料による多方特有の和紙が漉かれています。
実際に産地を訪ねて和紙を収集し、漉いている人に話を聞くことによって、見えてくるものもあったのです。
だから現在でも会の活動として、木材・漆喰・石・和紙など現地に訪ね、職人の技を見学し、自己研鑚の場としています。
個人的にも伝統的建築の素晴らしい左官仕事、東大寺の日干し煉瓦、法隆寺の版築など、全国をたくさん見て回ったものです」
―最近では後進の育成にも力を入れているようですが?
「大学で学生たちに教える以外に、『家づくりの会』での教育活動にも携わっています。
住宅設計を志す方々に向けて『家づくり学校』を開き、講師は私のほかに当会の住宅設計に実績のある建築家が担当し今年で5年目になりました。
生産現場に赴くことで、知識だけでなくそれをどう活かすかという実践へ繋がる経験の幅が格段に向上しているのではないでしょうか」
―これまでの作品で、素材へのこだわりが強く感じられるのは、他にも何か背景があるのでしょうか?
「30代に経験した、建築家クリストファー・アレグザンダーとの出会いが大きかったと思います。
建築の全体を発想するためには、素材を視野に入れる。
その根本にまで遡るやり方を実践されていて、彼のもとで、瓦を新しくデザインした際は、瓦工場や職人に会って工場や職人に会ってたくさんの事を調べました。
設計する建物の材料が、職人との関係性や素材を通してわかるようになり、本当の意味で自分らしい建築をつくることが可能になったのです。
素材は空間の質を決めると思います」
―今回、山本邸で工夫されている点は?
「アパート併用住宅、ご自宅で茶会をされたいという要望や、バス通りに面した立地など制約が多かったのですが、それがかえってプランニングを固めるのに役立ちました。
素材使いは私が長年培ってきた手法を踏襲しています。
木・石・紙・鉄などの本質的な美しさを、ひと手間かけてシンプルに引き出すような見せ方です。
その中で家具蔵の家具は、様々なインテリアの要素がミックスしている室内にうまく調和したと思います。
外観は、土地柄や周囲の街並みから武蔵野の面影を連想させるファサードを意識しました。
1階の通りに面した正面に、白い壁と深い軒があるのが特徴です。
飫肥杉とのコントラストが際立ち、古い納屋のような趣きです」
―お仕事を拝見すると、伝統と革新の美しい融合を感じます。
「例えば山本邸の欄間ですが、この複雑な組子の造形は、現代のハイテク技術が生かされています。
幾何学模様をコンピューターで作成し、そのデータを加工機械に送り、正確な寸法にカットされたパーツを建具職人が組みあげる事でこのような美しい造形が比較的容易に生まれます。
伝統をそのまま継承することももちろん大切ですが、現代ならではの技術力や発想力をもって、また新しい価値観を生み出していく。
そこに普遍性や本質的な美、面白さがあれば、それが新しい伝統となり得る、という事ですね」
次回はお話しの続きを伺いながらの後半。
実際の山本邸も詳しくご紹介します
取材協力:家づくりの会 / 田園都市建築家の会
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