日本の革文化を知る
2018.5.15
私たちの暮らしのなかでは日用品に、そしてインテリアでも椅子やソファにたびたび使用される「革」。
欧米から入ってきた文化に使われているイメージも強いですが、日本においても飛鳥時代以前に大陸から渡来した人々によって革の加工技術が伝えられ、古くから革を用いた文化が存在しています。
今回はそんな1000年以上の歴史がある日本の革文化について、歴史と地域の特性をふまえた「革」のお話です。
革の加工の伝承の違い
革の加工の文化は民族によって多様となります。
それは気候、風土、生活様式、文化の違いによって様々で、日本の場合は大陸からの伝承により革=皮革の歴史が始まります。
当時「熟皮高麗(おしかわこま)」、「狛部(こまべ)」といった呼称の工人達が、革の加工技術を伝えていきました。
今でいう東海地方では、当時より革のなめしが盛んに行われていました。
その工程は塩による原皮処理→浅瀬で洗い流しと漬け置き→脱毛→塩入れ→加湿→菜種の油付け→揉み→さらし→革洗いの反復作業にて行われており、日本が海外に門戸を開くつい150年ほど前までは、おおよそ全国的にこの技術で革の加工がされ、馬の鞍や文庫などに珍重されました。
現代の主流となっているクロムなめしやタンニンなめしは、明治時代以降に伝えられ現在に至ります。
日本の革の歴史
-古代から中世-
動物の皮は脂を除去したあとに敷物など、また毛を除去した後に革にして履物や楯、鞆などに加工していました。
4世紀頃になると百済より工人が渡来し、革の縫製技術が伝えられ、4世紀末に高麗より革工が渡来して革を製造するようになります。
平安時代でも耐久性や柔軟性、防水性を付与したものとして重宝されていた記録が多く残っています。
また、武士の出現・立場の変化によって鎌倉時代になめしの技術が急速に発展し、皮革と膠(すね)は武具の製造に不可欠となっていきました。
-近世-
江戸時代には牛馬の皮を多く使用した、現代に繋がる製革技術の基礎が確立されます。
京都では太鼓など一部の道具を除いて、革細工は基本的に町民の仕事でした。
-近代-
「富国強兵」と殖産興業の方針に従い、軍事用品(特に軍靴)の需要に応じるために洋式の製革法が本格的に導入されます。
外国人技師の招聘や万国博覧会への積極的参加により技術は著しく向上していきました。
地域の特性
●北海道・東北地域
独自の気候と冬場の厳しい自然のなかで発展してきたアイヌ文化では、動物だけでなく鮭などの皮もなめして靴などの日常品に使われていました。
馬の育成や牧場などが飛鳥時代から多数ある東北地方では、履物製造に歴史があり、現在でも山形県や福島県など地場産業としてその技術が伝えられています。
●関東
東京では袋物製造が盛んに行われ、浅草周辺では袋物に限らず、靴やベルトといった革製品の工場が軒を連ねていました。
隅田川や荒川などの大きな川があり、革のなめしにも適した土地柄で、その原料となる革を供給するなめし工場も多数存在します。家内制手工業的な規模の工場も多く存在します。
●中部
「甲州印伝」と呼ばれる、鹿皮に模様を付けて、「ふすべ技法」と漆で加工したものが名産ともなっています。
織田信長に謁見したことでも知られる宣教師のルイスフロイスが驚嘆を著書で記したふすべ技法とは、鹿皮を筒に貼り、藁を焚いていぶした後、松脂でいぶして自然な色に仕上げていきます。
甲州印伝は江戸時代中期に幕府に献上されたインド装飾革を国産化したものが起源と言われています。
現在この甲州印伝を製造できる製造所は甲府にある印傳屋だけとなってしまいました。
●関西
革に関する歴史は古く、その加工・生産は奈良時代以前より盛んです。
特に姫路のなめし事業者数は成牛革の東京の3倍近くあり、その美しさと強度から甲冑や武具、馬具や太鼓に至るまで広く使われています。
姫路を代表する「白なめし」(化学薬品を用いず、塩と菜種油で揉み上げ、天日にさらして動物本来の肌色に仕上げる技法)を用いた加工品は特に有名。
また日本の鞄の約7割を製造する鞄の街と言われる豊岡など、古くから革製品の歴史がある地域であると共にその技法の伝承活動も行われています。
●山陽・山陰
良質の鋼が取れ、日本刀の産地としても有名な山陽・山陰地方では、刀の柄や鞘が鮫皮というエイの皮で装飾されます。
このエイは日本の近海産だけではなく南シナ海やインド洋などで採れるツカエイの背面の皮を剥がし乾燥させたものです。
梅の木の皮にも似ている所から梅花皮(かいらぎ)とも呼ばれています。
現在では財布などの小物にも使われるようになりました。
●四国
日本を代表する手袋の産地。
日本の革手袋の90%以上の生産高を誇る香川県の東かがわ市も有名です。
ゴルフや野球のグローブなど一流スポーツ選手も多く愛用していますが、温暖な気候と、雨が少なく川が多いという地域性が皮革産業の発展した理由と言われています。
●九州
九州はその昔から、諸外国の玄関口として最初に外国からの異文化が入り込む地域です。
古代から中世・近代に掛けては中国から、近世に入ると西欧諸国から新技術が上陸し、革産業に於いても渡来人からの技法伝承の場となりました。
北九州市では現代でも女性の履物の生産地として有名で、また気候が温暖なため革の原料となる畜産も盛んです。
古来より人の暮らしに密接なかかわりを持っていた素材の一つが革。
衣服や履物など、加工をする技術は古くから人間の知恵によって生み出されてきました。
私達が日々の暮らしの中で手にする革製品も、日本各地にその歴史と伝統を根付かせています。
何に於いてもそうですが、職人の技法は時代を経ても受け継いでいかなければならないものです。
例えば木造住宅に於いて、柱や梁加工にプレカットで機械加工をすることが一般的になってきている一方で、墨付けの出来ない大工が増えてきているというニュースを見た事があります。
効率的な生産性も勿論必要ではありますが、人の手による物作りは、その物の素材に新たな価値を生み出します。
伝統を継承することは、決して忘れることが出来ない人間の大きな財産であるということを、家具蔵の家具を通して広くお客様に伝えていく事が私達の使命でもあります。
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