パッシブデザインという考え方
2018.3.19
最近、インテリア関係の書籍などで良く目にする言葉として、「パッシブデザイン」というものがあります。
家具蔵でも実際にお客様がお持ちになる間取図やお話の中に出てくることも。
パッシブデザインの「パッシブ」とは、言葉のとおり「受動性の・受身な・消極的な」という意味です。
パッシブの反対語としては、アクティブ=「自分から進んで働きかける・活動的・積極的・能動的」となります。
パッシブデザインとは、すなわち「受身なデザイン」という意味なのです。
これは建築の設計手法のひとつであり、特別な機械装置を使わずに、建物の構造や材料などの工夫によって熱や空気の流れを制御し、快適な室内環境をつくりだす手法とされています。
パッシブデザインの意味
パッシブデザイン、すなわち「受け身なデザイン」とはどういうものでしょうか。
これは、建物の温熱環境の整え方をイメージしていると理解できます。
建物の温熱環境を整えるには、通常、ストーブやエアコンのように、温度を上げる(あるいは下げる)装置を動かします。
建物の利用者が、自ら進んで装置を動かすことは「アクティブ」と捉えられます。
一方、建物が日射などの太陽エネルギーを始めとした自然から発生したエネルギーを得ることは、ストーブやエアコンなどの設備を稼働することに比較して「受動的・受身」と捉えています。
このようにパッシブデザインとは、機械的な手法によらず、建築的に自然エネルギーをコントロールすることで、建物の温熱環境を整えようとする手法なのです。
パッシブデザインのなかで、特に太陽エネルギーの利用に限定したときは、「パッシブソーラー」と呼んでいます。
パッシブデザインの8要素
パッシブデザインは、建築的な手法なので、いくつかの要素に分けられます。
ここでは代表的なものとして、集熱・熱移動・蓄熱・通風・採涼・排熱・日射遮蔽・断熱気密を挙げています。
集熱・・・
太陽熱など自然エネルギーを取り込み、室内環境に活かす入口の役割を果たす要素です。
例えば南面に面した窓がその集熱の役割を担っています。
しかしながらパッシブデザインとして考えるときに、単純な窓では、機能としては十分とは言えず、例えば冬の日中に集熱しつつ、夜間には放熱を止める、夏場には、逆に熱の侵入を防ぐなど、季節や時間帯に応じて、熱の出入りを自由にコントロールする仕組みが必要です。
熱移動・・・
室内空間に熱を分配する要素です。
輻射・対流・伝導などの現象によって熱は移動します。
基本的に暖気は上へ、冷気は下へと移動します。
蓄熱・・・
集熱した熱を蓄える要素です。
蓄熱することで日中の過熱を防ぎ、夜間には放熱されることによって、時間を問わず均一な室内温度を保つことができます。
集熱と蓄熱の部位は基本的に同一です。
排熱・・・
排熱は、夏の時期に室内の熱を持った空気を外に排出する要素です。
熱を持った空気は体積が膨張して軽くなるため、上昇する性質があります。
その性質を利用して外に空気を放出することで、家の中の温度を下げることができます。
日射遮蔽・・・
集熱とは反対に日射を遮ることで、室内の温度上昇を防ぐのが日射遮蔽です。
南側の深い庇は、太陽高度が高い夏の時期の日射を遮る一方、太陽高度の低い冬は日射が室内に到達できます。
その他、伝統的なすだれや、落葉樹による植栽、アサガオやヘチマのように、ツルが伸びて何かに巻き付いて伸びる種類の植物(ツル性植物)で作る緑のカーテンなども、日射遮蔽の手法の一つです。
通風・・・
人体の周りにある空気は体温によって熱を帯びていきます。
無風状態でじっと動かないでいるときには、熱を帯びた空気は、少しずつ上へ上へと移動し、やがて発散されていきます。
人体で熱を帯びた空気を逃さない役割を果たすのが衣服であり、冬に重ね着やマフラーなどが暖かく感じるのは空気を逃さないためのものです。
逆に、夏の時期には、半袖やノースリーブ、短パンなど肌の露出が大きい衣服が好まれるのも、逆に熱を帯びた空気を体から放散させやすくするためです。
このように暖かさを感じるためには、体の周りから空気を逃さないことが必要です。
逆に言えば、涼しさを感じるためには、エアコンなどで直接空気温度を下げる方法もありますが、単純に体の周りにある空気を積極的に入れ替えることだけでも有効です。
空気の温度が変わらないにも関わらず、扇風機など風があると涼しさを感じることができます。
扇風機は電力を利用して空気の流れをつくりますが、自然の力で風が通るように、窓を家の対角に配置し、通風を図ることで、涼感が得られて夏場の冷房負荷を減らすことができます。
採涼・・・
夏の日中、締め切っていると、室内の空気は熱気がこもり外気よりも温度が高くなります。
これは、密閉空間を構成している壁面が熱を帯びているためです。
何もしていないと、その熱は夜まで保ちつづけ、なかなか冷えません。
外気を導入することで冷やされますが、なかでも日陰の涼しい場所から空気を取り入れると、室内の温度を下げることができます。
断熱気密・・・
断熱気密については施工方法の研究が日々進んでおり、また建物の性能評価においても基準が定められたことで普及・浸透してきました。
パッシブデザインによる熱収支をコントロールするのにも当然重要な要素です。
パッシブデザインをどう活かすか
パッシブデザインの要素を取り入れる手法がわかっていて、エネルギーが削減された快適な住宅が作れるならすべてそれにしたほうがいいではないか、と思われるかもしれません。
しかしながら、パッシブデザインはどのような建物にも当てはめられる万能のものではないのです。
特に日本のような限られた土地の上で建てられる住宅事情では、それを導入するには難しさとジレンマが伴ってしまうこともあります。
そんなパッシブデザインの問題点とはなんでしょうか。
それはあまりにもローコストな建築では成立しないということです。
パッシブデザインの基本は太陽光や自然風などの自然エネルギーを上手く使いながら、快適で健康かつ省エネを求めながら、さらに美しい建築をデザインする設計手法です。
これらの性能を確保するために必要な最も重要な要素は「断熱と気密」です。
この絶対条件をクリアさせるためにはある程度の費用が必要となります。
この部分がクリアになり、認識も高まっていけば、エコの観点からも推奨されるべき取り組みといえるでしょう。
人は古来より自然環境と共存をし、その中で自然の恩恵を受けて生きながら得てきました。
自然の力を味方につけていくことで、人間が持つ本来の生きる力が養われます。
「人の生活は自然の上に成り立っていることを忘れてはいけない」
自然の素材を扱う我々家具蔵もまた、自然環境との共存のありがたさを十分に考え、皆様にお伝えしていきたく考えています。
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