奥深き「オーダーキッチン」の世界 ~その5~
2019.12.21
全6回となる、短期集中連載コラム“奥深き「オーダーキッチン」の世界”。
5回目は、マンションリフォームに際し、長年愛用してきた家具蔵の家具との調和を第一に考えた木のキッチンにこだわり、コストも抑えながら実現された、という方のお話です。
1953年の創業ののち、「家具蔵」のブランドで1995年に表参道にオープンしてからはや24年。
お陰様をもちまして、来年にはブランド創設25周年を迎えます。
その間に本当に多くの方々、全国津々浦々に無垢材家具の魅力、伝統工法を活かした職人家具の素晴らしさを楽しんでいただくなかで、10年・20年というスパンで家具蔵の家具をお使いいただいている方もたいへん多くなっています。
無着色で仕上げる無垢材家具の良いところはなんといっても、時間が経つほどに美しくなるその表情。
徐々に色味を深く、もしくはやさしく変えながら、そこで起きた出来事のひとつひとつをその躯体に刻み込むようにその「顔」を変えていきます。
勿論、手元に届いた際には美しい出来栄えです。
しかし、それよりも年を追うごとに表情を変えていく、その変化の後こそが家具蔵の家具の真骨頂であり、そこに本当の良さが現れます。
だからこそ、私たち家具蔵はそんな家具を長く使っていただくために、原木から仕入れた木を自社で厳格に管理し、徹底して長い時間をかけた感想ののち、木目までもデザインとすべく木取りを行います。
木組みでつくられた家具は職人の手仕上げによって新たな生命を吹き込まれ、皆様のもとへ。
そこに着色料は一切使われていません。
自然の色味だからこそ、経年変化を楽しむことができ、木目を楽しむことが可能となる。
そして、その自然の色味は他のインテリアとも自然に馴染み、自由なコーディネートを約束します。
好きなものを好きなものと一緒に使うことができる幸せを感じてほしいのです。
また、その自然な色合いは時間が経ったものと新しいものとの差異を感じ難くもしてくれます。
着色したものはいずれ色褪せ、もしくは剥げ落ち、新しいものとの差は歴然とします。
しかし無着色であれば、そこにネガティブな差は生まれず、だからこそ、今回ご紹介する方のように
「以前から使用していたものと合わせる」
ことが可能になるのです。
事実、家具蔵の各店には古くからご愛用頂いている方がたくさんいらっしゃいます。
「昔購入したものと同じチェアを買い足しに来た」
「以前注文したダイニングセットに合わせて収納を」
という声を多く拝聴するたびに、無着色でつくられた無垢材家具の良さを手前味噌ながら実感するのです。
そこには「第4回」で触れた、モノに対する背景・ストーリーがそれぞれの家具にあり、それを大事にしている方が多いからだと考えます。
そして、今回ご紹介するO様も普段気づかなかった無垢材の癒しと、その家具たちが纏った魅力とストーリーに気づいた一人なのです。
リフォーム全体をランクアップしてくれる愛用の木の家具と新しいキッチン
「マンションリフォームの際には家具蔵で無垢材キッチンを」とご相談頂いたO様は、もともとダイニングセットやTVボード(TV台収納)などで家具蔵のハードメープルでつくられた無垢材家具を長年ご愛用頂いていました。
数えること10数年前からご家族の様々な出来事を見守ってきたそれらの家具たちは、共に過ごした月日を表現するかのように「木の家具」ならではの琥珀色の深みと木肌の美しさがあり、 奥様はそれらの大切な家具が一番生きるような空間、リフォームにしたかった、と仰います。
とりわけ強くイメージされていたのは「朝日がキラキラ差し込む明るい空間」。
特にキッチンから繋がるダイニングゾーンはご家族皆様の生活の中心であり、そこを明るく、優しい雰囲気にしたいという思いを大事にして、リフォーム業者との打合せが進んでいきました。
はじめは漠然としていた奥様の理想のイメージでしたが、打合せを重ねるうちに徐々に明確なかたちになっていきます。その中で、 置き家具だけでなく、キッチンや造作家具までナチュラルで上品な木肌を持つ無垢材のハードメープルを選びたい、という思いに行きついたのは当然の事だったかも知れません。
自然光を受けて輝くハードメープルの持つ透明感のある「明るさ」と「清潔感」が家族と長い時間を過ごすその場に相応しいことを、既に近くで一緒に生活してきた家具達が教えてくれていたことが大きな要因です。
キッチン内部に目を向けると、キッチン本体のワークトップと高さを揃え作業効率を高めた無垢材背面収納のカウンター部が並んで見えます。
奥行も550㎜とたっぷりとったことで大型化する調理機器の配置も思いのまま、 大容量のスライドトレーと、なんでも入れておける扉部や引出も自然素材ならではの美しい表情が活きています。
吊棚も現場での数多くの打合せを経てベストな大きさ・高さ・奥行感で寸分たがわずピッタリ空間に収まりました。 職人の削り出しの技術が活きた取っ手もほどよいアクセントになっています。
そして、このキッチンの最も大きな特徴は…
実はキッチン本体は既製のシステムキッチン(トクラス)を採用していることです。
当初は全て家具蔵のオリジナルキッチンで構成することも考えていたのですが、キッチン以外の書斎も家具蔵の無垢材家具で造作した事もあり、予算配分を考慮しての選択でした。
キッチン本体の向かい側には、手元を隠すような立ち上がりを兼ねた収納を配し、こちらは家具蔵で製作しています。こうすることでキッチン本体が周囲から見えない、隠れた位置にくるので、システムキッチンの採用が可能となったという背景はありますが、コストダウンのテクニックとして有効な手段である事は言うまでもありません。
家具とキッチンそのものだけでなく、ライフスタイルや空間設計、仕様、コストコントロールまでをトータルに、そしてきめ細やかな提案を受けて完成した室内を見渡しながら
「こうして見ると我が家は無垢材の家具に囲まれているのですね。心から癒されるのはそのせいかしら…」
とつぶやいた奥様。
乳白色に輝くハードメープルの新しい無垢材キッチンと、時間を掛けて琥珀色に変化した既存の家具たち。
時を越えてひとつになった無垢材の家具が自然にそこに溶け込んでいました。
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