苗床のような伸びしろがある家を
vol.04 ナラのダイニング・リビング 埼玉県 柴崎邸
植本計画デザイン
植本俊介さん
東京大学工学部建築学科卒業、同大学院都市工学修士課程修了後、 株式会社曽根幸一・環境設計研究所を経て独立。1998年に植本計画デザインを設立する。「東京建築士会」所属。「プロトハウス」登録建築家、他。
「非常に緻密な現代のモダン建築はすごくきれいで好きなのですが、少し窮屈さを感じるところがあります。 シンプルで、全体としてはゆったりとしていながら、ソファの置く位置や向きまで決め込まれてしまうことも多い。 でもそこで想定外のことが起きたらどうするんだろう、と。10年、20年と年月を経るにつれて、家族構成や住まい方だって変わってきますから。 逆に昔のような囲炉裏を囲んだ部屋と縁側があるだけ、みたいなざっくりとした空間のほうが、よっぽど居心地が良かったりするんです。 モダン建築にも、そういう懐というか、余白が必要なのではないでしょうか。 考え尽くすんじゃなくて、敢えて考えないところもあるというか。 苗床としての家の骨格だけはしっかりつくって、あとは自由に育てばいい。長く住んでいく家にするためにも、必要な部分だと思いますね」。この家を設計した植本俊介さんはこう語ります。
薪ストーブを中心とした吹き抜けのダイニングには、「テーブルヴィンテージ」「アームチェアヴォーグⅡ」「チェア ゼン」の取り合わせ。
キッチンにはカウンターテーブルを併設し、座り心地のいい「カウンターチェア ノヴェル」(ウォールナット材)を並べた。
ダイニングの前は「ソファモデルノ」と「ローテーブルヴィンテージ」で寛ぐリビングスペース。大きな窓の外には緑の庭が。
キッチンとダイニングスペースの間には、視界の広がりを邪魔しないガラスの引き戸を設置。料理する際のにおいなどが気になる時には閉めておくこともできる。
吹き抜けには庇のついた天窓も設置。太陽の位置が高い夏の強い日差しは庇で遮られ、低い冬は温かい陽光が奥まで届くしかけとなっている。
水まわりからすぐ洗濯ものが干せるデッキへとつながる生活動線も確保。暮らしやすさという基本はどの空間においても取り入れられている。
掃除がしやすいハーフユニットタイプの浴室は、大部分を杉赤身板貼りにして心地良い木の香りに包まれるバスタイムを叶えた。
冬は薪ストーブに火をくべながら家族団らん。薪ストーブの排熱を使った床暖房システムで寒さ知らずの快適さが実現。
建物の構造体をデザインに組み込むことで、また建物としての力強さが現れてくる。見た目だけの美しさではなく、そこにしっかりと機能があるからこそ生まれる形によって、存在感のある家ができあがる。
シンプルでモダン、それでいて自然に包まれるような温かみのある柴崎邸。大きくとった三角のハイサイドライトからも自然光がたっぷり降り注ぐ。